「一対一の関係性を描きたかった」『フラグタイム』アニメ化記念 さと×プロデューサー寺田悠輔対談
作品が描かれてから数年の時を経てアニメ化が発表された「フラグタイム」。原作者・さとと、プロデューサー・寺田悠輔の本音対談。
──まず、今回のアニメ化のいきさつから教えていただけますか?
寺田:もともと僕は個人的に原作を読んでいたんです。ちょうど2巻が出た時ぐらいに見つけたので、2014年の冬ぐらいですかね。新宿の紀伊国屋で平積みにされているのを見て、ピンと来て買って読んでみたらすごく良くて。ただ当時はまだ入社したばかりだったので、たんに自分の好きな漫画になったというだけだったんですが、その後、プロデューサーになって、色々な条件の中でひとつ作品を作ろうという話が出たときに、『フラグタイム』はすごく良いのではないかと思いまして。去年の夏ぐらいに秋田書店さんに映像化の可否についてお伺いしにいきました。
さと:その時点では私も話半分で聞いていて。というのも、過去に映像化したいって話が来たものの立ち消えちゃうことが何度かあったので、「いいですよー」って感じだったんですが、そこからの展開が早くてびっくりしました(笑)。
寺田:最初から自分なりのプランニングをした上で、ご挨拶にお伺いしました。もちろん映像企画は自分ひとりの裁量では決められませんので、一緒にやると言ってくれたスタッフの方や、この映像化にビジネスとして付き合ってくれる出資社の方がいたことによって、正式に進められたというのはあります。アニメの詳細をまだ出していないので、気になっている方もいらっしゃるかと思いますが、まもなく追加の発表ができるかと思います。
──寺田さん自身は『フラグタイム』のどういう部分に魅力を感じられたのでしょう?
寺田:もともと映画でも本でも「二人きりの世界」みたいなものが好きで、『フラグタイム』も森谷さんと村上さんの一対一の関係性がすごく細やかに描かれているところに惹かれました。僕自身、仕事柄いろんな人の間に入ってやり取りをしないといけないことが多いのですが、人づきあいに苦しむ森谷さんと自分が重なったのも大きいです。あと僕、さとさんがツイッタ―でたまにアップされている画像もすごく好きで。「コミュ障ものがたり」とかすごく面白くて、わかるわかるってネタが多いです。
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— さと (@sasasatotototo) 2015年5月28日
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さと:ありがとうございます。人づきあいの難しさみたいなのは、すごくわかりますね。『フラグタイム』は私自身が学生時代に感じてた、ヒリヒリした感じを描きたかったんです。学生時代って自意識が高くて、いちばん気持ちが揺らいでる時期で。狭い世界で人にどう見られるとか、どう振る舞ったらいいかということばかり考えてて、今思うともうちょっとうまくできたんじゃないかな…って。
寺田:最初に読んだときは、僕もどちらかというと森谷さんと自分が重なる部分が多かったです。ただ、プロデューサーという立場になってくると、どうしても村上さんみたいに生きざるを得ない部分が出てきていて。コミュニケーションが苦手で自分の殻に閉じこもっている森谷さんと、みんなとうまくコミュニケーションしてるように見えて実は相手に合わせて努力して演じてる村上さん。どっちに共感するかは時と場合にもよると思いますが、誰の心にも森谷さんと村上さんがいるんじゃないかと思っています。
さと:確かに! どちらか一方だけではなく、両方飼ってますよね。私もひとりでいるときは森谷さん、人と一緒にいるときは村上さん、みたいな陰と陽があって。人に対していい顔しちゃう、その人用の自分みたいなのがいて、それって実は失礼なんじゃないかなという思いが後半、村上さんが自分の気持ちを吐露するエピソードに繋がってます。
──『フラグタイム』は百合漫画として語られがちですが、森谷さんと村上さんのように、自分と真逆のタイプの人に惹かれることって性別問わずありますよね。
寺田:だから個人的には『フラグタイム』は女性同士じゃなくても当てはまる話だなと思っています。人づきあいが苦手な人が、人気者に声を掛けられてドキドキするみたいなことって、男性同士でも、もちろん異性間でもあると思うので、いろんな方に共感していただける普遍性があると思ったんです。これは学生時代に限った話でもないですよね。
さと:私自身は単純に女子高生が好きという嗜好もあるんですが(笑)、そう言っていただけると嬉しいですね。
──「時間を止める」という設定もすごくキャッチーですが、実は森谷さんの閉じた世界のメタファーでもあって、唯一そこに入って来れる人が村上さんというのも心くすぐられます。
寺田:そうですよね。実は社内用の企画書に「3分間だけ、あなたのこと好きにさせて?」という原作1巻にあるキャッチコピーを使わせてもらったんですが、そのキャッチはいろいろな人に興味を持ってもらえました。「3分間だけ時間が止まったら何をするか」という話題はすごく広がりがあって、例えばウルトラマンだったり、カップラーメンだったり、AVだったり、「ジョジョだったら最強じゃん」みたいな話だったり、それぞれが妄想を膨らませやすいみたいで。そのキャッチーさはきっとお客さんにとっても同じなのではないかと思っています。
さと:なるほど。私が「時間を止める」という設定を思いついたのは、人をじっくり観察したいなと思ったからなんです。漫画を書くにあたって観察力が要されることが多いんですが、普段は恥ずかしくて人をあんまり見れないので、時間を止めて欲しいなーって。資料としてお店の写真を撮ることも多いんですが、本当は許可が必要なところを恥ずかしいからこっそり撮ってたら、やめてくださいって言われて。ああ、時間が止められたらなあって…。
寺田:なるほど、漫画家さんにしかなさそうな面白い視点ですね。
さと:普段ひとりでいることが多いので、アイデアを練るというよりは、ひとり遊びみたいな感じで自然にあれこれ妄想しちゃうところはありますね。
寺田:僕も人とのコミュニケーションがあまり好きではなくて、結果映画とか本が好きになり、漠然と裏方の仕事に就いたんですけど、その中でもプロデューサーというコミュニケーションど真ん中の職業に付いてしまって。果たしてやっていけるのだろうか…と日々思いながら、なんとかやっているところですね。
さと:それは私もそうで、ひとりでいたいから漫画家になったのに、漫画を描くためには人とコミュニケーションをとらないといけない。なんでこんなことに? って思いながらやってます(笑)。
寺田:仮に自分への好意であってもグイグイ来られると引いてしまうことがあったり、どういう感じで人と付き合っていくかは難しいですよね。
さと:そうですね。人間関係とか人との距離って、学生時代だけでなく、ずっと考えることだから。昔よりうまくできるようになったかなとは思うんですけど、体力も使いますからねえ…。
──『フラグタイム』では森谷さんと村上さんが本音をぶつけ合うことで、互いを理解して、自身も一歩を踏み出す姿が描かれていますが、時には人とぶつかることも必要?
さと:個人的には、まず目の前の人とちゃんと向き合って、そこの関係を築くことで、外の世界とも向き合えるのかなと思って。たとえ誰かに好きになってもらわなくても、自分から好きだという働きかけがあれば、ちゃんと世界と繋がっていけるんじゃないかなと(笑)。
寺田:いろんな人とコミュニケーションを取らなくても、わかってくれる人が一人いればいい。無理に世界を広げずに小さい世界で生きてもいいじゃん、みたいな考え方って、現実逃避とかではなく、今の時代のひとつのリアルとしてあるような気がしています。『フラグタイム』の魅力はいろいろあると思うんですが、今回のアニメでも「一対一のコミュニケーション」という部分は魅力のひとつだと思っているので、いろんな方に見ていただきたいです。詳細もまもなく発表できると思いますので、原作を読みながら、もう少しだけお待ちいただければと思います。
さと:原作の形を汲んでくださって、とっても素敵なものができてきてると思うので、私も楽しみです!是非是非、楽しみにお待ちください!
ポニーキャニオン所属。過去担当作「あさがおと加瀬さん。」プロデューサー、「ローリング☆ガールズ」宣伝担当、「少女邂逅」パッケージプロデューサーほか。
★さと プロフィール
漫画家。自身のサイト内で掲載していた漫画「いわせてみてえもんだ」で商業デビュー。代表作に「りびんぐでっど!」(秋田書店刊)、「フラグタイム」(秋田書店刊)など。現在、ふらっとヒーローズにて連載中の「神絵師JKとOL腐女子」第1巻が2019年6月14日頃発売予定。
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