ゆうきゆう×武蔵野みどり セックスレス対談（前編）
インタビュー：井口啓子（C） ゆうきゆう・ソウ／少年画報社
良好な恋人・夫婦関係を築き、継続してゆくためには、互いが満足できるセックスは必要不可欠とまでは言わないけれど、軽視できない問題であることは確かなわけで。若者の性欲低下が取り沙汰され、日本の夫婦の過半数はセックスレス状態にあると言われる今、レスにまつわるお悩みを抱えてモヤモヤしている人は、きっと少なくないはず。関係性が破綻しているならいざ知らず、決して仲は悪くはないのにセックスレスに陥ってしまうのはなぜ？ その奥にある男性特有の心理とは？ レスを遠ざけ、良好な男女関係をキープする方法は？ 自らが過去にセックスレスに悩んだ経験を綴ったコミックエッセイ「レス婚 『してくれない夫』と結婚してしまいました」の著者・武蔵野みどりさんが、多方面で活躍中の精神科医・ゆうきゆうさんに率直な悩みや疑問をぶつけてみました。
セックスレスで悩む自分は変なの？
武蔵野 今回の本は、私が過去にセックスレスに悩んでいた経験をマンガに書いたもので、ブログでごく個人的に発表していたんですが、当時から大きな反響があって。レスで悩んでる人ってこんなに多いんだ！ってびっくりしたんです。実際セックスレスが原因で心療内科を訪れる方っているんでしょうか？
ゆうき そうですね。悩みを抱えて病んでしまった方の原因を紐解いてみると、旦那さんが自分の気持ちをわかってくれないとか、どうしても口論になってしまうとか、なにかしら夫婦関係の悩みを抱えていて、そのひとつにセックスレスがある、ということは多いですね。
あるアメリカの調査によると「夫婦間の関係性＝性行為の回数ー口論の回数」で計算すると言われていて、要は性行為が多いほど、そして口論が少ないほど「ポイントが高い＝離婚しづらい」とされているんです。逆に、性行為の回数が減って口論が増えてしまうと、どんどんマイナスになってゆく。この二つは深く関係していて、口論が少ないほど性行為は多いし、口論が多いほど性行為は少ない傾向にあるんです。
武蔵野 なるほど。確かに口論までいかなくても、どこかに敵対する気持ちがあるとセックスからは遠ざかりますよね。
ゆうき 男女共に「こんな人に心／身体を許してたまるか」という感じで、自分の深い部分を預けることにはなりにくいと思います。夫婦関係とひとくちに言っても、いろんなパターンがあると思うんですが、精神科医としてセックスレス専門の治療に取り組まれている阿部輝夫さんの『セックスレスの精神医学』という著書によると、奥さんが姉御肌で夫が付いていくタイプ、奥さんと旦那さんが友達的で対等なタイプ、旦那さんがリードして奥さんが付いていくタイプの3パターンがあるとして、セックスレスの治療がいちばんうまくいくのは3番目のタイプなんですって。
武蔵野 それ『マンガで分かる心療内科』でも描かれてましたが、女性としてはちょっと複雑な気もします。
ゆうき ごもっともです（笑）。ただ、旦那さんがリードしていくタイプということは、もともと男性ホルモンが高い人とも言えます。そこをさらに女性が立ててくれることで、より男性ホルモンが高まる＝セックスしやすい状態になる、ということでしょうか。男性主体の話をすると、よく男性は女性から「すごーい」とか「知らなかった！」とか言って立てられるとがんばれると言いますが、逆に「ここはおかしい」みたいに責められると自信を無くしたり、反発心が起こる。そうすると夫婦として一緒にいても性行為をしづらくなる部分はあるでしょうね。だから噓でもいいから相手を褒めるということは、関係性を回復したり、やる気のない相手をもり立てる方法としてはアリかもしれません。
武蔵野 なるほど。私が衝撃だったのは旦那さんに奥さんの若い頃の写真を見せるという治療方法で、ちょっとヒドイ気もしますが（笑）、そうやって旦那さんが努力してくれることで女性もやさしくなれて、結果うまくいくっていうのは女性としても「これこれ、この姿勢が欲しいの！」って思いました。
ゆうき 結果はどうあれ、自分にちゃんと気持ちを向けてくれる姿勢に感動して満たされる部分は大いにありますよね。それは男女の立場に関係なく一緒で、女性が「どうすればいい？」という協力的な感じになれば男性もやる気になるし、根本的な敵対関係がなくなればいろいろ改善していくのかなとは思います。
武蔵野 今回本に描いた、うちの元旦那の場合はもともと性的なことにあまり興味がないタイプだったんですよ。これはレスあるあるなんですけど、朝ゴミ箱をチェックしても1人で処理したような痕跡もないし、四六時中一緒だったので浮気をしているわけでもない。本当にそういうことが必要ない人だったみたいで、「そんなことよりも別に他に楽しいことがあるじゃない」って（笑）。
ゆうき なるほどなるほど……。ある調査では日本人の性交渉回数は世界26か国で最下位とされているように、実際セックスレスは増えていて。その背景には元旦那さんがおっしゃるように、他にいろんな娯楽が増えたことも原因としてあるんでしょうが、本を拝読したかぎりでは元旦那さんの場合は、根本的に他人に対して閉ざされているところがありますよね。
武蔵野 そうなんです。今でいう発達障害じゃないけど、人の気持ちが読めない人なのかなあと。セックスにしても相談したら「じゃあ、やりましょう」と言ってやってはくれるんだけど、週に一回掃除の後とか機械的でそこに心がないような感じでどんどんさみしくなっちゃって、ついに完全なスキンシップレスになりました……。
ゆうき 発達障害の方は何でもルール化することで、ある程度スムーズに社会生活を営むことができるんですが、良くも悪くもロボット的で、その場の空気で……みたいなやんわりしたものは理解できない。相手の気持ちを慮ることも苦手なので周囲の理解やサポートがないと、人間関係の維持が難しかったり、離婚率も高いと言われていますね……。
武蔵野 そういう意味では、うちの場合はちょっと特殊だったかもですが、セックスレスに悩んでる気持ちを相手に理解してもらえない、話し合うことすらできないという方は多いみたいなんです。先生も最近のYouTubeで「話し合いが大事です！」と仰っていましたが、ちゃんと話し合える相手だったら、たとえレスに陥ってもなんとかなるのかなって。
ゆうき いろんな夫婦関係があるので一概には言えませんが、お互いが意地を張り合って「どうせわかってくれない」と閉じちゃうとセックスからは遠ざかるし、どちらか一方が噓でも折れたら、相手も歩み寄ってきて自然にレスが解消されることはあると思います。
武蔵野 でも最近は「仲良しなんだけどセックスレス」というパターンも増えてますよね。夫婦仲は決して悪くない、むしろよくて会話も弾むんだけれど、セックスはしないという。それで両方がしたくなかったら何の問題もないんですが、どちらか一方だけがしたい場合は悩みが生じるわけで……。セックスしたがらない相手をその気にさせるには、どうすればいいんでしょう？
精神科医・マンガ原作者。ゆうクリニックグループ総院長としての医師業の傍ら、マンガ原作者として「マンガで分かる心療内科」などを手掛ける。また心理学研究者としても多数の著書の発行。YouTubeで心理学や心理学テクニックに関する番組を配信するなど、多岐に渡って活躍中。
次回は11月7日更新です。次回、ゆうき先生の答えは……！？
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