アルコール依存の父との暮らしを描いたコミックエッセイ『酔うと化け物になる父がつらい』の菊池真理子さんと、『うちの母ってヘンですか?』、『キレる私をやめたい』を描いた田房永子さん。性格が真逆のふたりの共通点は、毒親育ちということ。前編に続き、今回は親に対して持ち続けている罪悪感について対談しました。
子供を傷つける毒親の本音。
── 『酔うと化け物になる父がつらい』には、親に対しての「罪悪感」についての描写が何度も出てきます。
菊池真理子(以下、菊池) 田房さんは『母がしんどい』を描いた時に罪悪感を持ちましたか?
田房永子(以下、田房) 1000%、罪悪感しかなかった。これ読んだら、お母さんがショックでどうにかなってしまうんじゃないかという不安もあった。
菊池 出版物に対して、相手は一言の反論もできない状態だから、罪悪感を持ってしまいますよね。
田房 私は、罪悪感がなくなるまで4年くらいかかった。でも、お父さんに対しては「読め!」という気持ちもあって。なんでかというと、私とお母さんの間にあったことを、「俺がフーテンでフラフラして好き勝手やってたせいで、お前たちには迷惑かけたな」というロマンにすりかえちゃってるんです。家庭内の認識がすごいちぐはぐで。
菊池 お父さんは『母がしんどい』を読んだんですか?
田房 それはわからないです。
── じゃあ読んだ感想とかは特になく?
田房 なかったです。最初はショックを受けたかもしれないけど、実は親にとってはたいしたことじゃないのかもしれない。
菊池 知人で、ふたりの娘さんを持っている女性が「もし娘たちから”お母さんと縁を切る”と言われたとしても怖くない。母親から子供に対しての愛情は、縁を切られたくらいじゃ揺らがないから」と言っていて。 親の考え方ってそういうものなのかな、と思いました。
田房 子供にとっては、その考え方が怖いんだよね。
菊池 「縁を切る」という必死の攻撃が、受けた側からすると痛くもかゆくもないというのは、ちょっと悲しいですけどね。子供は大きな被害を被っているのに。
田房 それがこちらの悲しみの原因なんだけど、悲しんで苦しんで恨みきって、「親のことはどうでもいい」っていうポイントにいくと、その愚鈍さに救われることもある気がしてきた、最近。自分が「親がしんどい」と「親のことはどうでもいい」のどっちにスライドするかっていうのが重要だから、最終的には親の出方は関係なくなってくる。
菊池 うちは親が死んでるから、本人が読む可能性がないので。生きてたら描けなかったと思うし、自分も最終回で描いたような気持ちにならなかったと思います。
田房 そうなんだ。私は読んでいて、自分が菊池さんのお父さんだったら、娘がこの作品を書いてくれて嬉しいと思うと思ったよ。お父さんへの愛が描かれているし、親からしたら、めっちゃいい内容だと思う。
菊池 今、親がいなくて超楽ですけどね。私は親子問題で悩んでる人たちに「早く親が死ねばいいね」って笑顔で言っているような気分でいます。当時、父が酔っ払っている写真や動画を撮っていたんですけど、父には見せられなかったんですよ。「あなたはこんなみっともない生き方をしてるんですよ」って突きつけることができなかった。それくらいだから、生きてるうちは絶対描けなかったと思います。
依存症のきっかけは「誰からも注目されないさみしさ」?
田房 私、自分を含めて、依存症がある人って「わたしは誰にも注目されていない」というさみしさがあるんじゃないかなと思っていて。このマンガをお父さんが読んだら、そういうさみしさが満たされたと思います。こんなに自分のことを見ていてくれたんだ、って。
菊池 細かいことは忘れていたし、あんまり父のこと見てなかったと思うんですけどね……。
田房 私は5年前に出した『母がしんどい』の表紙に、お母さんの顔がどーんてあるんです。「私、なんではじめての単行本にお母さんの顔描いてるんだろう? 結局ここでもおまえかよ! おまえが全部持って行くのかよ!」と思いました。
菊池 私も単行本の表紙に、父の顔を描いています。
田房 こういうマンガを描くこと自体、お母さんのことが好きでしょうがないことの裏返し、とか言われるのがすごくつらかった。お母さんへの愛みたいなところがあったと、今はうっすら思うこともあるけど、「嫌いなんだ!」ってやっと言えるようになった人に「そこまで言うのは好きってことなのよ」とか言うのは本当に酷なことだね。
── 『母がしんどい』に対して、当時と今では見方が違いますか?
田房 当時は「描きました!」とか宣伝しちゃいけないブツだと思ってました。もっと神妙にするべきというか……お母さんという被害者がいる気分。だから「読んでね!」とは言えなくて「読んでいただけますよう……」とそっと差し出すような感じでした。
菊池 いま、私がそういう感じです。キャラが一定しない(笑)。もうひとつのペンネーム(小沢カオル)と落差がありすぎて…。
でも、最近は無理やり小沢カオルでいなくていいかな、無理やりテンションあげなくていいかなって思えるようになって、楽になってきたかな。
田房 あと菊池さんに対して「著者が幸せになることを祈ってます」って感想を書いている人がたくさんいるけど、「どっから目線だよ! お前は神かよ!」って腹立たない? 私も「この著者が幸せになっていますように」ってよく書かれるんだけど、「あなたとそんなに違います?」って思う。
菊池 私は「祈り返しまーす!」って感じ。上とか下とか思ってなくて、ただ、「ありがとう」って思います。
田房 「うっせーんだよ!」って思ってたけど、私もそう考えよう……。
── そのままでいてほしいですけど、田房さんには。
田房 清らかになりたい(笑)。
菊池 こういうふうに呑気だから私は父親の異常さに気づけなかったんですよ。「おとーさん、酔っ払ってる~」としか考えられなくて。
田房 日本人は、何種類かの人種で構成されてるという説があるじゃないですか。だとしたら、私と菊池さんは祖先が違いますよね。
菊池 私は稲作とかして米だけ食べてそう。狩猟とかしてなくて、白い木綿まいて、寒くてもそれでしのいでる感じ。
田房 私、たぶん火とかのまわりで踊って、毛皮着てたと思う。豊田真由子さんとか松居一代さんとか、みんな同じ祖先だなと思っていて。
菊池 私、誰だろう。昔から、中森明菜さんとか宮沢りえさんとか低温なイメージの人に好感を覚えるんですけれど。
田房 私はアッパーな感じに懐かしみを覚えます。母親のぬくもりを感じるんだよね……。あのトンチキな感じを求めちゃう。
菊池 私は、瞬間的に自分が何を感じてるかわかるようになりたいです。いつも一瞬、少なくとも3秒は止まってしまう。だから、どんなにキツい取材でもこなせるのかもしれないんだけど……。心をシャットダウンしてしまうから。極端なことをしないと心が動かないから、危ないところにひとり旅に行ったりしてしまうんだと思います。田房さんみたくライブ感を味わいたい。火の周りで踊るような情熱がほしい。
田房 生まれた種族が違うから。
菊池 私は火の回りで踊るネイティブにはなれないのか……!
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