「ペンネームも絵柄も全て変えて持ち込みをしたマンガで得たもの」水凪トリ インタビュー | Souffle(スーフル)
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トピックス 2021.04.16

【特集】

「しあわせは食べて寝て待て」作者・水凪トリインタビュー|ペンネームも絵柄も全て変えて持ち込んだ漫画で人生が変わった。「この作品は、人生最後のチャレンジ」

4月16日に単行本1巻が発売される「しあわせは食べて寝て待て」作者・水凪トリさん。実は違うペンネームでマンガを描いていたこともありました――。 (取材・文:粟生こずえ)

水凪トリ先生インタビュー

ヒロインの麦巻さとこは38歳、独身。かつてはフルタイムで勤めていたが難病を発症。日常生活を送る分には問題ないものの、体調を崩しやすいために週4のパートがギリギリ。将来を憂い、家賃を抑えるために団地に引っ越すことに。隣に住む大家の鈴さん(92歳)、その息子だという”料理番“の司に薬膳の知識を教わったりで、新生活を始めてから毎日がちょっといい感じに……。

読み始めた当初は、ずばりヒロインとともに薬膳の知識を得ていくハウツー風のショートストーリーだと思っていた。だが、2話、3話と読み進めるうちにふと気づいたのだ。基本、1話は16ページくらいだが、初っ端から非常に「人間ドラマ」の読み応えが濃く、ストーリーのうねりにグイグイ引き込む力量に。もちろん、薬膳は本作の柱ではあるのだが。

「実は、私自身が免疫疾患の持病があるんです。体のあちこちが痛くなったり、風邪をひきやすくて。薬を減らすために食べ物に気をつけたいと思っていた矢先、たまたま作品の持ち込みをしていた出版社のホームページを見ていたら薬膳の本が紹介されていたんです」

さっそく本から知識を得て、自分でも試してみるようになったのが薬膳との出会いだった。

「1話に描きましたが、大根をかじったら本当に頭痛が治ってしまって。『これはすごい、マンガに描こう!』と(笑)。女性は40歳前後で体の不調が出やすいので、ヒロインを38歳に決めて。さて、どこの雑誌に持ち込もうかと迷っていたとき、たまたまスーフルのサイトを見ていて。編集部のインスタグラムを見たら『薬膳に興味を持っている』と書いている方がいるじゃないですか。ここに送るしかないと思いました。」

水凪トリ先生インタビュー
水凪トリ先生インタビュー
水凪トリ先生インタビュー

奇跡的な「引き」の力も作用して、「フォアミセス」での連載が即決したというわけなのだ。それにしても隣人に食事を呼ばれたりする「ご近所づきあい」にも憧れてしまう。

「薬膳を紹介するだけでなく、人間関係を大切にしたお話にしようという軸は編集さんと打ち合わせをする中で決まりました。それから、団地を素敵なものに描きたかったという気持ちもありますね。団地って、お年寄りばかりが住んでいるような印象が強い気がして。でも、最近は団地をリフォームして住む若い方も増えていますし」

水凪トリ先生インタビュー

大家の鈴さんは、昔ながらのちょっとおせっかいな老婦人。一方、司の優しいようで「風邪をひいているときに老人の家に来るのは非常識」とピシャッと言うような態度にはハッとさせられた。

水凪トリ先生インタビュー
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水凪トリ先生インタビュー
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「そのあたり、線引きができる人に描くことは意識しました。ご近所づきあいでは優しさだけじゃなく、上手な距離の取り方が必要だなと」

折にふれて描かれるさとこのバックグラウンドも、読み手の共感を呼ぶ現代性に満ちている。たとえば、かつて勤めた会社で同僚に時短勤務していることで陰口を叩かれたり、母親から悪気なく「命に関わる病気じゃなくても人生つまずいちゃうものなのね」「お見合いさせとけばよかった」と傷つく言葉を言われたり。

水凪トリ先生インタビュー

「がんばれない自分に、誰よりがっかりしているのは自分なんですけどね。私も病気になったときは、そんな自分がいやで。でも、体が悪くても工夫次第で楽しく生きていけるんだなと気づくようになりました。私の場合、今の一番の趣味は温泉と薬膳なんですけど。以前とは目標の置き方が変わっても、毎日を穏やかに楽しむ、そういう感じを描いていけたらいいなと思います」

水凪トリ先生インタビュー

今や「一様にがんばる」のが美徳の時代は終わった。自分のペースで生き、他人のペースを互いに理解し尊重しあう──そんな多様性を、本作は訴えかけているように感じるのだ。

『しあわせは食べて寝て待て』は「水凪トリ」のデビュー作。だが、水凪先生は「木元ひわこ」名義で活躍されてきた方だと知って納得! 社会性を折りこみつつ薬膳のハウツーと人間ドラマを巧みに絡ませながら読ませる技は、長年のキャリアに裏打ちされたものだったのだ。

「少女マンガでデビューして、のちにレディース系の雑誌に移り……結婚テーマの作品や、お金のハウツーものなども長く描きました。病気の症状が出始めた頃、体調不良もあってマンガを描くのが辛くなり、どういうマンガが自分に向いているのか、面白いマンガが描けているのかわからなくなった時期もありました。この作品は最後のチャレンジと思って心機一転、絵柄も変えて臨みました」

ドライフルーツのあんず、梅シロップ、ジャスミン茶に陳皮、小豆粥など、各話に登場する薬膳の知識は、すぐにマネしてみたくなるものばかり。また、最近がぜん存在感を増す、さとこが勤めるデザイン会社の社長・唐さんの動向も気になるところ。司と唐はまるでタイプが違うけれど、もしかしてこの先は恋愛展開もあったりするのだろうか⁉︎

水凪トリ先生インタビュー

「あまり先まで決めてないのですが、『さとこさんが穏やかに暮らしていけるには?』を考えながら描いていきたいと思います。病気じゃなくても、みんなそれぞれいろんな事情を抱えているわけで。どうやったら楽しく生きていけるかを模索している人に向けて、ホッとできるようなお話を描いていきたいです。今は、辛かったときのこともすべて忘れ去るくらい、とても楽しく漫画を描かせていただいています!」

水凪トリ先生インタビュー

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撮影:竹中智也

単行本は4月16日発売です。

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