『CREWでございます! 負けるな!航空業界!』発売記念 御前モカ×宮木あや子 「お仕事作品」対談!
8月16日に発売された御前モカ先生の最新刊『CREWでございます! 負けるな! 航空業界!』の帯に、『校閲ガール』『CAボーイ』の著者・宮木あや子先生がコメントを寄せてくださいました。元CAという経歴を持つ御前先生と、取材を重ねて航空業界の作品を書き上げた宮木先生。ファンの多い“お仕事作品”を生み出す2人に、制作の舞台裏を聞いてみました!
取材・文:篠崎美緒
写真:竹中智也
『CAボーイ』は、軽いノリで始まったんです。
——お二人の共通点と言えば、航空業界が主題の作品を手がけていることです。なぜこの業界をテーマに、作品を創ろうと思ったのでしょうか?
宮木:すごくチャラい理由なんですけど、『校閲ガール』がドラマ化された時に友達から祝ってもらう会があったんですね。そこに来た航空会社に勤めている男の子は、CA(キャビンアテンダント)を2年間やったのち、今は営業にいるそうなんです。「CA募集経由で就職しても、2年経って希望すれば別部署へ行ける」と教えてもらい、「面白いから、『CAボーイ』という小説にしてもいい?」と聞いたら、「やめてくれ、身バレする」と言われて(笑)。「絶対あなただとわからないようにするから」と言ったんですけど、結局逃げられて……。
御前:逃げられてしまったのですね。
宮木:はい、彼は音信不通になってしまいました。それで逆に「音信不通ならいいや、書いちゃえ」と(笑)。編集者に「『CAボーイ』という話、書いてもいいですか?」と聞いたら「面白そうですね」と言われてゴーサイン、という軽いノリです。
ただCAの知り合いが周りにいなくて、取材は意外と大変でした。あとCAさんの仕事の大変さを知らないまま取材に入ったので、「こんなに大変なんだ!」と驚いたんですよね。これは軽いノリで書いたら失礼だ、訓練のあたりもちゃんとまじめに書こうと思いました。
御前:わたくしはもともと『北斗の拳』や『ベルセルク』みたいな漫画が描きたくて、筋肉の絵ばかり練習しておりました。そうして描いた作品をコミティアの出張編集部に持参して、秋田書店のブースで立ち読みをしていたところ、ブースを片付けていた編集者が話しかけてくださいました。持参した原稿を見ていただいたのですが、何しろ構想が壮大なファンタジーなため、物語の導入4ページしか描けていなくて。言葉に詰まる編集者に、「このようなものもあります」とクルーを紹介する一コマ漫画を見せたところ、「これは面白い」と言っていただきました。
宮木:昔から漫画を描いていらっしゃったんですか?
御前:いえ、描いておりませんでした。漫画を描きたいと志した時期がすでに大人だったので、「残された時間は少ない」とお教室に通って学びました。
——宮木先生は『CAボーイ』を書くに当たり、『CREWでございます!』を読んだそうですね。
宮木:そうなんです。編集者が役に立ちそうな本をドバッと送ってくれたのですが、その中に『CREWでございます!』シリーズが3冊……。
御前:するっと紛れ込んでいたのですね。
宮木:編集者からの「この漫画が一番わかりやすかったです」というメッセージとともに届き、読んだら確かにわかりやすくて。もし取材相手がどうしても見つからなかった場合、恥を忍んで御前先生にお話を伺いましょう、と話していたんです。
御前:いらしていただけたら、むしろ喜んでお話ししましたのに。
宮木:それはさすがに申し訳なさ過ぎると、自力でなんとかしました。
——実際、職業をテーマにした作品では、取材がかなり必要になると思います。宮木先生は、どのような形で取材をしているのでしょうか?
宮木:知り合いづてですね。『CAボーイ』は編集者の同僚の同級生がパイロットで、奥様がCAだったので、そのご家庭を取材させていただきました。あとは仲の良かった人が地方でキャスターをやっていて、当時CAさんとよく合コンをしていたらしく(笑)、その人脈を生かして何人か紹介していただいたり。やっぱり複数の人に取材しないと、わからないことが多いので。
——御前先生は前職がCAですが、改めて取材はしましたか?
御前:そうですね、実体験に加えて友人や、さらに友人の友人にもお話を伺いました。できる限りどの企業にも共通するできごとに特化して、一社特有のことは描かないようにしています。
宮木:そうなんですね!
御前:はい、あえてそうしています。お読みくださる方には航空ファンが多くいらっしゃって、それぞれの“推しエアライン”があるのです。皆様から愛していただけるよう、特定の航空会社に特化する話は描かないようにしております。
実際、いただくお手紙を読むと「うちの航空会社の話じゃないかもしれませんが」と複数の会社の方からいただくので、うまくいっているのかなと。逆に「これはうちの会社のようだ」というお手紙も、やはり様々な会社の方からいただくので、よいことだと思います。
——職業をテーマにした作品を創る際に、心がけていることは?
御前:現役の方の足を絶対に引っ張らないこと、でしょうか。CAはわたくしの周りでは安全保安要員だとご理解してくださっている方が多いのですが、宮木先生が『CREWでございます! 負けるな! 航空業界!』の帯に書いてくださった通り、世間的には合コンなどでチャラチャラしているという目で見られていたりもします。
実際、わたくし自身も働いていたときにそういったイメージを持たれていると感じておりましたし、取材に協力くださっている方々からも「現役時代にそのような目で見られてつらかった」「家族やパートナーから心ない言葉をかけられてしまう」という話をよく聞きます。「チャラチャラした人には命を預けられない」とお考えの方が機内で万が一の状況になった時、CAよりも自分のほうが正しいと思ってしまいかねません。
チャラついたイメージをわたくしが作品内で増幅させてしまうと、安全面でも足を引っ張ることになるので、それだけはしないようにしています。
また1冊に1話は必ず安全の情報を入れていますが、安全に関することは常時更新されています。ですから「万が一の時は現場の乗務員の指示に従ってください」という言葉は、必ず入れるようにしております。
宮木:私はいろんな種類の職業をテーマにしていますが、「小説で仕事のことを勉強しよう」という動機で手にする方もいるんですよね。それは、専門書を読んでいただいたほうがいいと思います。『校閲ガール』を書いた時も「もっと校閲の仕事のことがわかると思った」と言われましたが、校閲経験者が書いた本を読まれたほうがいいです。
私自身、研究書にはならないように気をつけています。いろんな職業の小説を読んでいる時、説明の部分は読み飛ばしがちなんですよね。私は物語を楽しみたいタイプだから、詳細な説明はあまり重視していなくて。でも自分で書く時は丁寧に取材して、間違えたことは絶対に書かないよう努力していますし、書き込めるだけ書き込みます。ただ「ここから先を書いてもだれるな」というところはカットして、読者のリズムは崩さないように考えています。
御前:『CAボーイ』はかなり、専門的な話が入っていますよね。
宮木:あれでも結構、削ったんですよ。
御前:そうだったんですね! 訓練パートなど、かなり詳しかったので。
宮木:大丈夫でした? 合ってましたか?
御前:大丈夫ですよ。
「読んだら飛行機に乗れるようになりました」と言われ、嬉しかった
——職業をテーマにした作品を手がけて、よかったことは?
御前:わたくしの場合は航空業界しか描いていないので、「読んだら飛行機に乗れるようになりました」と言われたことですね。
宮木:『CREWでございます!』は、業界のイメージアップに貢献していると思いますよ。航空業界の裏側をこれだけきちんと描いてある創作物は、あまりなかった気がします。
御前:「訓練をこんなにやっていると知って、クルーが頼もしく見えました」という言葉をいただくこともあるので、イメージアップになっていたら嬉しいですね。
宮木:私は『帝国の女』というテレビ業界の話を書いたことがありまして、それは取材先が全員お友達だったのですが、その人たちから「書いてくれてありがとう」という言葉をもらいました。「救われた」って。
御前:そういえばわたくしもその言葉、言われました。
宮木:テレビ業界もCAさんと同じで、軟派でチャラチャラしたイメージがあるんですよね。でも本当は、泥の沼で生きているようなお仕事です。その子たちから「真実を書いてくれてありがとう」と言われたことが、嬉しかったです。
御前:CAは、表向きは泥臭いことを表現してはいけませんし、安全面に関してもお客様に恐怖を与えてはいけません。この作品を描いて、「私たちが口にできないことを伝えてくれてありがとう」という言葉をいただいたことを、宮木先生のお言葉でわたくしも思い出しました。
——逆に大変なことは?
宮木:御前先生もおっしゃっていましたが、その職業に就いている方のイメージを傷つけないようにするのは、さじ加減が難しくて。私はわりと素直に書いてしまい、編集者から「ここはダメなんじゃないですか?」とよく言われます(笑)。御前先生は“元CA”という肩書きがありますが、私は一からその職業を取材させてもらうただの素人です。実際に働いている方のフィールドに土足でお邪魔している状態なので、迷惑にならないよう心がけています。
御前:創っているものはエンターテイメントですが、わたくしが持っている知識をそのまま描くとマニュアルになってしまいます。先ほど、宮木先生が「説明部分は飛ばしてしまう」とおっしゃっていましたが、わたくしが描いているのはまさにそのパートで……。
編集者が「この情報、読者には必要ないですよね」とアドバイスをくださるので、それに沿いつつも、自分が入れたい情報はほんのり入れたりしています。
——航空業界を描いた作品の魅力は、どこに感じますか?
宮木:それこそ御前先生のコミックの帯に書いたように、私自身も『CAボーイ』を書くまでは、CAさんに色眼鏡的なものがありました。「どうせいい男の人と結婚するんでしょ?」という女のひがみが(笑)。でもお仕事内容を調べていくと、「これはいい男と結婚するわ」と納得するんですよ。どちらのファンの方にも「違う」と言われるかもですが、宝塚のようだと感じました。
御前:それは確かに、よく言われます。
宮木:宝塚のお嬢さんたちも厳しい訓練を2年間受けますが、CAさんたちは3か月くらいの厳しい訓練を経て大変な現場に出て、日々笑顔でいなければいけない。私には絶対無理だから、改めて「すごいな」と感じます。おかげで、それまで持っていたひがみのようなものが消えました。CAさんがうらやましいと思ったことはないんですけど、「金持ちイケメンの結婚相手はまたCAか」という気持ちはありました。ごめんなさい!
御前:いえいえ。
宮木:『CAボーイ』を書いて、そういう偏見は一切なくなりましたね。あれだけ厳しい訓練を耐えて、人前で笑顔を絶やさなければ、そりゃいい男に惚れられるよと。ひがんでる人はそれだけの努力をしてみてごらんよ、私も含めて、と思いました(笑)。
御前:宮木先生は安全に関してしっかり書いてくださいましたが、ここ近年は航空業界の安全に触れたエンターテインメントってあまりなかったと思います。
CAたちは毎年、保安要員の資格を保持するための試験を受けます。筆記と実技が両方あって、それにクリアしないと乗務できません。さらにコミュニケーションの訓練とか、危険物の扱いや機内保安の訓練と筆記試験が年に一度、毎年あります。そういうことをもっと積極的に描いて、読者の方々に伝えていきたいですね。
宮木:知らないことを知ることができるのは、“お仕事作品”の魅力ですものね。
御前:はい、そう思います。
——最後にお二人から、メッセージをお願いします!
宮木:“お仕事作品”は、若い人にたくさん読んでほしいんですよね。それこそ『13歳のハローワーク』みたいな感じで、将来の選択肢カタログのようになるといいなと思います。ただ、小説はそこまでなかなか届かなくて。漫画は小説よりもきっと届きやすいから、『CREWでございます!』を読んで「CAになりたいです」と言う子供たちがいたらいいですよね。
御前:たまにお子様からいただくコメントは「ルウ姐かわいい」「ヒヨコちゃんかわいい」などで、「CREWになりたいです」というお言葉はまだいただいたことがございません(笑)。
宮木:でも小さいころから読んでいると刷り込まれて、職業選択をする場面で思い出すのでは……。
御前:この作品がCAについて描いているものだと、お子様は認知していないかも……。そんな『CREWでございます!』の最新刊『負けるな!航空業界!』が8月16日に発売されました。皆様、買ってください。
宮木:私の『CAボーイ』も……。
御前:『CAボーイ』も買ってください!
1976年、神奈川県生まれ。2006年、『花宵道中』で第5回『女による女のためのR−18文学賞』の大賞と読者賞をダブル受賞し、デビュー。著書の『校閲ガール』は、石原さとみ主演で2016年にドラマ化された。近著は『CAボーイ』(KADOKAWA)。
CAとしてキャリアを重ね、2015年に漫画家デビュー。現在、『CREWでございます!』を『マンガクロス』で連載中。コミック第4弾となる『CREWでございます! 負けるな! 航空業界!』が8月16日に発売された。
『CREWでございます!』1話ためし読みはこちらから!
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