ボニータ・コミックス祝2連覇!! 宝島社「このマンガがすごい!」2年連続1位記念 たらちねジョン×トマトスープ スペシャル対談
『Souffle』にて連載中、トマトスープ先生『天幕のジャードゥーガル』(以下『天幕』)が「このマンガがすごい!2023」オンナ編1位、『月刊ミステリーボニータ』にて連載中、たらちねジョン先生『海が走るエンドロール』(以下『海が走る』)は、去年のオンナ編1位に続き、今年もオンナ編6位にランクインしました。ボニータ・コミックス2年連続1位ランクインを記念して、今回『Souffle』ではおふたりにお話を伺いました。
ボニータ・コミックス、2年連続「このマン」オンナ編1位!
──おふたりともおめでとうございます!
トマトスープ(以下スープ) ありがとうございます! この作品は、自分が好きなものを好きに描かせてもらっているものなんです。1位の連絡をいただいたときは本当にびっくりして、「いいの?」と思いました(笑)。
たらちねジョン(以下たらちね) トマトスープ先生、おめでとうございます! そして今年のランクイン、とてもうれしいです。去年は最初実感がなくて、コミックスの重版がかかるうちにだんだん実感が湧いてきました。作品が評価をいただいたことで、読者の方が知り合いに勧めやすくなったり、手に取るきっかけになったりしたんだと思います。引き続き皆さんに楽しんでもらえているかなと心配だったのですが、今回の2年連続ランクインで、ちょっと救われた気持ちがあります。我ながら振り回されていますね…(笑)。
──おふたりが感じる、お互いの作品の魅力はなんですか?
スープ たらちね先生の絵は、パッションが迸っていますよね。読者に訴えかけて、心を動かす絵だなと感じています。うみ子さんが入った美大で、通っている人のいろいろな事情が描かれているところがすごく好きです。それぞれ違う背景と違う目標を持っているけど、「映画を作る」という共通点でお互いを照らし合わせながら進んで、作品を作る喜びが描かれている。美大の空気感もすごくなつかしいです。
たらちね そうだ、トマトスープ先生も美大出身でしたよね。
スープ はい、映像ではなく版画専攻だったんですけども。「こういう教授いた」とか「講評会ってこんな空気だった」とか、本当に“あるある”で。単に楽しいだけじゃない、でもだからこそ本当の意味で楽しいところにいるんだ、という空気を漫画から感じています。
たらちね 『海が走る』が美大ものになったのは、編集さんが引き出してくれたからなんです。いろいろ話をして、そこから「美大もの」「年配の女性が主人公」とアイデアを出してもらっていきました。毎月、こんなに好きに楽しく描かせてもらっているものにOKが出るんだと驚きます。説教くさくはしたくないけれど、自分がこれまで生きてきて引っかかったことを作品に載せたいなと描くと、その気持ちを汲んでくれる。初めての体験でした。
スープ うみ子さんがどんどん魅力的になっていくのがすごく楽しい! この世界の人たちが、早くうみ子さんの魅力に気づいてほしいとずっと思っています。
たらちね 『天幕』は、「面白さって、数ページでこんなに伝わるんだ」と感動した作品でした。学ぶことや考えることへの描き方がすごく豊かですよね。今の段階ではそれを大事に思っていない読者に対しても、大事さが伝わる表現。
スープ 大変光栄です…! 「わからなかったことがわかる楽しさ」を共感してほしいし、その楽しさがわかること自体、周囲の人や環境に支えられている、そういうことを描いていきたいとずっと思っています。
──トマトスープ先生はいつから歴史漫画を描くようになったのでしょうか。
スープ 大学のころからです。調べていて面白いなと思った歴史を、いわばプレゼンとして漫画にしていたんです。たとえば織田信長やマリー・アントワネットなどのよく知った人物に関する作品は、私が描かなくても名作がたくさんあります。でもまだほとんど作品になっていない面白い人物や歴史を知ると、燃え上がるというか…マイナー好きなところがあるかもしれません(笑)。
たらちね マイナー好き! 確かに、実を言うと『天幕』で初めて知った人物がいっぱいいます。
スープ そうですよね…Wikipedia は怪しい記事もあるので、鵜呑みにしないでください(笑)。『天幕』は、歴史を調べる中で心にとどめておいたお話の1つで、13世紀モンゴル帝国の後宮もの。もともとは、ドレゲネという女性が中心のお話だったのですが、編集さんと話しながら2番手だったファーティマが主人公になっていきました。そうすることで、13世紀のアラビア語文化圏のロジカルな部分を描くことができる。ファーティマはかなり自由に歩き回ってくれるので、読者をナビゲートするキャラとしてもよかったです。
たらちね そして絵がとにかくよくて、天才的なバランス。物語の題材は暗めだけど、絵が時代を問わないポップなラインで魅力的。この物語を描くのに一番合っている絵ですよね。
スープ うれしいです…! 出版社に初めて持ち込んだときは「歴史ものでこの絵柄はないんじゃないですか?」というダメ出しをもらったりして「はあ?」となりました。だってこの絵がいいと言ってくれる人もいるし…と描き続けていたら、発表する場をいただけて今に至ります。
たらちね 「この絵がいい」、間違いないですよ! ファーティマの心の中には、1巻の時点ではモンゴル帝国への憎しみが渦巻いていますよね。その感情がどんな形に変化していくのかが楽しみです。
漫画ができるまで
──おふたりが漫画を描き始めたのはいつごろですか?
たらちね 高校生のころ、洋楽のPVを漫画に描き起こしてみたのが最初だと思います。そのあと二次創作のカルチャーに出会って、漫画を描くのって楽しいなというテンションになって、今まで描き続けています。とにかく「物語を作りたい」という欲求があって、映画の道を一度志すんですけど、美大の映像科で「他人と一緒に作るのって難しいな」と痛感して。一人で描ける漫画が一番いいなと思って漫画の道にハマっていきました。
スープ 私は絵を描くのはずっと好きで、水木しげる先生の絵や、デフォルメの強いカートゥーンの影響が強いかなと思っています。読者としては鈴木翁二先生やつげ義春先生など「ガロ」系や、バンド・デシネ系の漫画が好きだったんですが、なかなかああいう漫画は自分には描くのが難しくて。歴史の漫画のほうなら描けるなと、大学生のころからライフワーク的に描いていました。
──おふたりはそれぞれ『月刊ミステリーボニータ』『Souffle』で連載していらっしゃいます。どのような経緯だったのでしょうか。
たらちね 私は前にやっていた連載(『アザミの城の魔女』)が終わるタイミングで、『ボニータ』の編集さんに声をかけてもらいました。もともと“少女漫画育ち”でしたし、少女漫画レーベルで描けるのがうれしかったです。
スープ 私は『ダンピアのおいしい冒険』を並行して連載しているのですが、それを見てくださり声をかけてもらいました。『Souffle』って、秋田書店のいろいろなレーベルの編集者さんが関わっているサイトなので、最初「紙の雑誌で連載しますか、ウェブの『Souffle』で連載しますか」と提案をいただいて。新しい媒体なら挑戦できるし、自分の心の中のハードルも低かったんです。さらに自分の絵は紙の雑誌には向かないかも…と思って、『Souffle』での連載にさせてもらいました。
たらちね いやいや! 『天幕』、紙の雑誌でもどーんと見開きとか見てみたい作品ですよ。それこそバンド・デシネとか、大判フルカラーでも読んでみたいです。
スープ バンド・デシネ…! それは憧れますけど、大変そうです(笑)。歴史もので、なおかつ13世紀のモンゴルという比較的マイナーな時代を扱っている作品を読んでくれる人は、少ないのではないかという気持ちが最初はありまして。マイナー好きとしては悔しいところなんですが、自信がなかったんですね。でもワンクリックで読めるウェブ媒体で連載すれば、その気軽さに頼れるかなと。自分の心の中のハードルが低かったです。
──ウェブ媒体は読者の反響も見やすいのではと思いますが、SNSなどのコメントは読んでいますか?
スープ Twitterなどで反応を寄せてもらっているのは時々見ています! すごくありがたいのですが、もし「つまらない」という声がたくさんあったらどうしよう…と検索するたびドキドキするのもあって。「面白い」という声を見ると、今月の合格をもらった…! という気持ちになります。
たらちね 読者の方からのコメントや感想、緊張しますよね…!
ボニータレーベルで少女漫画を描く面白さ
──「このマンガがすごい!」オンナ編で1位に選ばれたおふたり。「女性向け」「少女漫画」ということを意識することはありますか?
たらちね 「女性向けレーベルだからこうしよう」というような意識はしてないですし、編集さんから言われることもないですね。本当に自由に描かせてもらっています!
スープ 私もです。そこまで器用なことができないというか。『ダンピアのおいしい冒険』で一昨年「オトコ編」の6位をいただいたんですが、『天幕』とテンションは変わっていないと思います。あえて言うなら1話でファーティマ(シタラ)からムハンマドへの淡い気持ちを描いたくらい。
たらちね ムハンマドとの関係、すごく気になっています(笑)。1話の終わりがまさかの「二人が顔を合わせたのは生涯これが最後となる」ですよ!? …それはさておき、意識はしていなくても、私目線で「こういうキャラが出たらわくわくするな」というような気持ちは入っているかもしれません。“少女漫画育ち”で自分自身好きになった要素が作品に反映されていて、結果としてそれが少女漫画読者の方に楽しんでもらえていたらいいな。
スープ 少女漫画といえばで、連載しながらあらためて気づいたことなんですが…少女漫画の歴史ジャンルって豊かですよね。たとえば『ベルサイユのばら』が思い浮かびますし、秋田書店でいま連載している漫画でも、『天上恋歌~金の皇女と火の薬師~』や大河ロマンの『王家の紋章』がある。王道はもちろん、意外な時代、意外な人を扱う土壌がある。そうした文化の中に自分の作品もあると思います。
たらちね さっき『Souffle』について挑戦できるというお話をされていましたが、『ボニータ』で連載していても同じことを感じます。作家に好きにやらせてくれて、なんでも載せてくれる。でもそれは数撃ちゃ当たるではなく、自信を持って載せているなと。実は周りの新人さんに「持ち込んでみなよ」と勧めてまわっています(笑)。
スープ すごい(笑)。連載しているレーベルは違いますが、単行本は同じボニータ・コミックスなので、我々は「ボニータメイト」ですね!
たらちね ボニータメイト! いいですね、今度からそれ使わせてもらいます(笑)。
(取材・文/青柳美帆子)
第1話試し読みはこちら
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Webメディア・マトグロッソで「ダンピアのおいしい冒険」を連載中。単行本「ダンピアのおいしい冒険」(イースト・プレス)も発売中。
他、趣味で主に中世~近世の世界史をテーマとした歴史漫画を制作。
作者twitter @Tsoup2
兵庫県出身。既刊に、『グッドナイト、アイラブユー』(KADOKAWA)、『アザミの森の魔女』(竹書房)がある。現在「月刊ミステリーボニータ」(秋田書店)にて『海が走るエンドロール』を連載中。『海が走るエンドロール』は宝島社「このマンガがすごい!2022」オンナ編第1位、「マンガ大賞2022」第9位にランクインするなど、高い注目を浴びる。
作者twitter @new_john1
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