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トピックス 2023.01.26

【特集】

安田弘之×コナリミサト 原作者が語る映像化対談!!

2月23日に公開を迎える映画『ちひろさん』。2019年にドラマ化された『凪のお暇』の作者コナリミサト先生と安田弘之先生が〝原作者から見た作品の映像化〟について語ってくれました!

『安田弘之×コナリミサト 原作者が語る映像化対談!!』

取材・文/粟生こずえ
撮影/竹中智也

原作を深く解釈する熱意ある作り手との出会い

コナリ 実写映画『ちひろさん』完成おめでとうございます! 本当に楽しみです。私も映画監督だったら映像化権を取りに行ったのに。「オレのちひろを動かしたい!」って(笑)。

安田 そう? 僕は絶対やりたくないなぁ。監督さんにも「よくこんなものをやりますね」って言ったんだけど(笑)。でも、本当によくやってくださってすごくいい映画に仕上がったんです。

コナリ 単行本9冊分からどのエピソードを拾っているのか気になります。

安田 すごく原作を読みこんで、考えて、エピソードをうまいこと組み合わせて、全体の流れを作って……その工夫には頭が下がりますね。コナリさんもドラマ化のときそうだったでしょ?

コナリ はい。めちゃくちゃ感激してました! エピソードのピックアップはおまかせで?

安田 だいたいまかせましたね。違和感があるかもと思ったところだけ相談する形で。最終的には、脚本を読んでも映像になったらどうなるか、僕らにはイメージできないよね。『ショムニ』のドラマの時、それがわかったんです。正直なところ、脚本の段階では面白いと思えなかったんだけど、どういう演技がつくか、どんな絵になるかで自分が想像しえなかったものになるから。

コナリ 『ショムニ』の時は毎週テレビ見てました?

安田 うん、見てた。

コナリ 感動しません? 自分の作品がドラマになって毎週放映されるって。

安田 感動と、逃げたい感じ。自分の書いたセリフがそのまま拾われてたりすると……。

コナリ 恥ずかしい時もあるけど「いいセリフだな」って思ったり。いいこと言うな〜と思ってたら、脚本家さんの書いたセリフだったこともありましたけど(笑)。

──それくらい、コナリ先生にもしっくりくるセリフだったんですね。

コナリ そうです。うれしいですよ。

安田 脚本家の人の中に、自分の作ったキャラクターが生きてるってことですよね。「この人はこう言う」ってわかってくれてる。幸せなことですよね。マンガの実写化って、原作通りにやればいいというわけでもなく、解釈が一致しているのが重要なんです。『凪のお暇』はすごく出来がよかったですね。

コナリ はい、大好きなドラマでした!

──映像化に対して積極的ではなかった安田先生が、このたびゴーサインを出したポイントはどこにあったのでしょうか。

安田 気持ちを動かされたのは企画制作の方の「どうしても自分たちの手で作りたい」という熱意でした。僕の話もすごくよく聞いてくれたので「こういう人たちならまかせられる」と思えたんです。それから……たとえば『ちひろさん』をきっぷのいい姉さんがカッコよく人助けしていく話みたいにとらえられることがあるんですが。そういう解釈だったらおまかせはできないですね。

コナリ ちひろさんって正義の味方ってわけじゃないですもんね。どっちかといえば、ちょっと危うい人?

安田 そうですね。今泉監督は、日常の人間の面白さに興味がある人で。キャラクターのある一面を立たせるんじゃなくて、「生きてる人間のカッコ悪さ」も含めてどんな人でも愛おしむタイプ。そういう人が作るならいいな、って思えたんです。

『安田弘之×コナリミサト 原作者が語る映像化対談!!』

人を理解することと「好き」になるかどうかは別でいい

──『ちひろさん』の登場人物にモデルはいるんですか?

安田 モデルはいないです。全部、自分の中から出てくる。自分の中にブレンドされて入ってるいろんな人の属性をつまみ出して、人型にして並べてるような感じ。描くときは、一人一人に憑依するんですよ。

──主人公でも、一回だけの登場人物でも?

安田 全部同じですね。脇役も全力で形作る。そうでないと動いてくれないんです。キャラクターを形作るというのは「設定を固める」ことではなく、徹底的に共感してなりきるということ。しゃべり方、動き方ひとつとっても。

コナリ キャラクターに乗っかりきれない時もありますね。必要だと思って書いたセリフでも「こんなこと言わないな」って気づくと、ネームの手が止まっちゃう。進めるには、そのキャラクターのことをすごく考えなくちゃならないから、辛い。

安田 本当にしんどいですよね。主人公に乗っかりきれないこともあります。先に物語の筋を作ってしまうと、齟齬が出た時に困りますよね。キャラクターに「こう動いてほしい」「こんなことを言ってほしい」という縛りができちゃうんだけど、「この人、こんなこと考えない」と気づいてしまうと……。だから、できの悪いネームって、説明的なセリフが多いですよね。

コナリ なんとかつじつまを合わせて持って行こうとしちゃって。

安田 それを捨てるまでに時間がかかる

コナリ もったいなくてなかなか捨てられないんですよ。時間がかかるほど。

──読んでいくうちに印象が変わっていくキャラクターもいますが、現実世界で考えればそれは自然なことですよね。

コナリ 『凪のお暇』でいうと、お母さんの可愛げが出てきたりとか。

安田 最初のころは、お母さんが出てくるとね……ページ閉じてた(笑)。

コナリ 最近、お母さんのこと、嫌いになれないんですよ。

安田 描きながら、その人のことを理解していってるからだよね。この人がなぜこうなってしまったのかを紐解いていくうちに、可愛げが見えてくる。でもね、嫌いな人は嫌いのままでもいいと思いますよ。許さなくても構わないんじゃないかな。

──安田先生、ちひろさんの顔になってます!

安田 それこそ、ほぼ全ての人を理解することは可能だと思ってます。その人の事情を深く知っていけば。この人はこんな体験があって、こういう考え方になって、だからこう振る舞っているんだなと。でも、理解した上で「許さなくてもいい、嫌いでもいいんだよ」ってあえて言いたい。

コナリ 悪には悪の事情がある、みたいなのもちょっと飽きましたよね。人の事情を理解することと、その先は別だと思います。

『安田弘之×コナリミサト 原作者が語る映像化対談!!』

男性優位的な社会の問題点が表面化してきた今、思うこと

安田 その人がどんなひどい目にあっていたとしても、それを理由に人を踏んでいいわけじゃないから。僕、踏む人が大嫌いなんですよ。そうは言ってもね……自分だって無意識に踏んでたことがあると思うんです。たとえば近年、男の人がいかに女性を無意識に虐げていたかが表面化してきたでしょ? これで、気づかされちゃったんですよ。女性を上から品定めして狩りの対象みたいに扱う人間が嫌いで、そういうとこに立たない男として生きてきたのに、それでも実は自分も「踏んでたのかな」とわかって。

──自分に厳しいですね。人を緻密に見る目をご自身にも向けているのだと思いますが。 

安田 自分としてはショックですけどね……今はそれを「体験してる」状態だととらえています。これはきっと糧になる。いつか必ず、それは創作のもとになると思って向き合っています。

コナリ 安田先生は、小さいころから人を見ることに意識的だったんですか?

安田 今思えば、子どものころから他人が思ってること、感じてることを自分のことのように感じ取っていたんですよね。「笑ってるけど機嫌悪いな」とか、「こう言ってるけど嘘だな」とか、この2人は仲よさそうにしてるけど嫌いあってるなとか。

コナリ そういうの、何歳くらいの時からわかってたんですか?

安田 小学生くらい? 自分にとっては当たり前だったので、無自覚だったんですけど。

コナリ 私は、人のことを気にする方ではあったかな。小学校のとき、遠足のバスで隣に座った人に楽しいって思ってほしいとか。

安田 自分のいる空間を楽しいものにしたいという意識があったんですね。でも、それってみんながやってることじゃないんですよ。これに気づいたのは大学生くらいかな。そこからですね、本当の意味で人を理解しなくちゃと思うようになったのは。

『安田弘之×コナリミサト 原作者が語る映像化対談!!』

性別がアイデンティティではないちひろさんというキャラクター

──安田先生は女性の主人公の方が描きやすいのでしょうか?

安田 自分の考えに沿って感情を表現する時、男性を使うとうまく乗らないんですよね。女性の方がぴったりくることが多いから、自然とそうなってしまうみたい。とはいえ、いわゆるフェミニンな女性を描くわけでもなく……性別をアイデンティティにしていない人間を描くには、女性の方が描きやすいということなんだろうと。

コナリ ちひろも性別で言い表せないキャラクターですよね。

安田 その人でしかないっていうだけだね。男性作家でありながら女性を描くと、ちょうど真ん中に立てるような感じがあるかも。意図してたわけじゃなく、そういえば昔から女性の主人公しか描いてないなと気づいて考えた結果なんだけど。

──安田先生を女性だと思っていた方もいるのでは?

安田 よく言われましたね。「なんでこんなに女性の心理を描くのがうまいんですか」と言っていただくこともあります。

コナリ しかもかゆいところに手が届いてますよね。私、ちひろさんが合コンに行く話が好きなんですよ。そこにいる男たちを見事に手玉に取って……それで「どうよ!」じゃなくて、「で、だからなんなの」って自分にツッコむ。あれがすごく好き。気持ちいい!

『安田弘之×コナリミサト 原作者が語る映像化対談!!』

※単行本1巻 第3話「女子力バトル」より。

安田 「合コンっていうゲームはこうやれば勝てるんだよね」ってやってみせたけど、「このゲーム、私にとっては全然面白くなかったわ」っていうね。でも、やったことないゲームをはなから否定するんじゃなくて、経験して、攻略法がわかるところまでやってから結論を出す。

コナリ 「否定しない」ところもいいんですよね。

安田 そのゲームがあることは悪いことじゃない。面白いと思う人たちにとっては大事なものだから。「理解はしたけど『私』は面白くないから降ります」って宣言するところを描くのが『ちひろさん』というマンガ。

──その立ち位置が魅力だと感じます。

安田 でも、けっこう誤解もされがちなんですよ。合コン大好きな女性たちをばかにしてマウントを取ってる女の話って見られてしまうこともあるんです。

コナリ え⁉︎ よく読んだら、そうは描かれてないのがわかると思いますけどね。

安田 まあ、そういう見方をされるのもわからなくもない。たまたまその話だけ読んだ人が「『ちひろさん』ってマウント取るいけ好かない女の話なんだ」ってツイッターでつぶやいてるのを、めっちゃエゴサーチしてる僕が知る……と(笑)。

コナリ 安田さん、エゴサーチするんですか(笑)。

安田 生きがいだもん。だって、感想をもらえるって最高じゃないですか。SNSがない時代、感想をもらうってすごくハードルが高いことだったから。面白いと思ってもアンケートを書いて出版社に送る人なんてごく一部ですよ。今はどんな人がどんな感想を持ったのかが即見られるんだからね。毎日エゴサーチしてるよ。

──『ちひろさん』の映画が公開になると、さらにエゴサーチが楽しみになりますね。

コナリ あ〜、早く映画観たいです。ちひろさんが働いてるお弁当屋さんのお弁当、どうなってるんだろう? 食べ物好きとしてはここも注目ポイントです。

安田 お楽しみに! 最高に満足できる映画になっているので、原作ファンの皆さんにも早く観ていただきたいです。

『安田弘之×コナリミサト 原作者が語る映像化対談!!』

「ちひろさん」9巻 (安田弘之)

「凪のお暇」10巻 コナリミサト


映画「ちひろさん」
2023年2月23日(木・祝)
Netflixにて全世界配信&全国劇場公開

『安田弘之×コナリミサト 原作者が語る映像化対談!!』

映画『ちひろさん』公式サイト
https://chihiro-san.asmik-ace.co.jp/

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