『ちひろさん』完結記念 安田弘之×ReoNa スペシャル対談
『ちひろさん』完結記念としておこなわれたスペシャル対談、Souffleバージョン! 新時代のシンガーとして人気をあつめる ReoNaさんは「ちひろさん」の愛読者。「悲しみ」を知るアーティスト同士の感性が、素敵なハーモニーを奏でます。

わけのわからない大人にいてほしかった
安田弘之 この漫画で描いたちひろという主人公は、要は自分にとっての“いてほしかった大人”なんですよ。
ReoNa なるほど……!
安田 変わった大人の存在って、人生においてすごく大事なものだと思っていて。ちゃんとした立派な大人だけじゃなくて、“変な人だけど妙な説得力のある大人”が人生の道すがらにいてほしかったんですよね。「周りにどう見られるか」じゃなくて、「自分がどうありたいか」で生きている大人。
ReoNa 私が『ちひろさん』と出会ったのは15、6歳の頃だったんですけど、まさに「こんな人がいてくれたらな」と感じていました。何かあったときに、いつも間接的にちひろさんが寄り添ってくれたんです。


会いたかった人に、ついに会えた。
安田 15、6歳でそれを感じてたってことは、それだけいろいろあったってことですよね。『ちひろさん』を好きで読んでいるという時点で、僕にとっては“話が通じる人”なんですよ。読者、しかも熱心に読み込んでいる人というのは親戚も同然なんです。
ReoNa その感覚は私にもあります。私も楽曲の中に自分が感じてきた痛みや孤独などを少なからず投影しているので、受け取ってくれる人はきっと似た痛みを抱えた、親戚みたいな人たちなんだろうなと思っていて。
安田 スタンスがすごく似てるってことですよね。今日が初対面ではあるんだけど、「どうせ近い星から来た人でしょ?」と思って(笑)、最初から気が楽だったんです。
ReoNa 同じ星だと思います(笑)。

「同じ星」に納得のReoNaさん。
恋愛に救われてたまるかと
ReoNa ちひろさんが恋愛に振り回されない人でいてくれてよかった、という思いがすごくあって。
安田 普通だったら、この人は恋愛をしてしまうんですよ(笑)。一生懸命ひとりで立ってたんだけど、最後には結局恋愛や結婚というところに救われてしまうのがパターンなんです。僕は絶対それが嫌だったんだよね。誰かに助けられて、救われてたまるかと。
ReoNa ふふふ(笑)。
安田 そんなことで埋められるような安易なものではないんですよ。もちろん好きな人ができて、その人が一時的なつっかえ棒みたいな存在になることはあるだろうし、それによって生きることが楽しくなったりテンションが上がることはあると思うけど、そんなの長続きしないしさ。
ReoNa そうですよね。
安田 ましてや、一番近くにいて絶対に嫌われたくない人に対して「自分のこの部分は見せられんぞ」みたいな形を取ってしまうと、そこがずっと埋まらない穴になり続けちゃう。とにかく、ちひろが恋愛をしてそれで救われるみたいな、そういう安易な話には絶対したくない思いがあったんです。
ReoNa もし『ちひろさん』がそういう結末になっていたら、私はすごい違和感を覚えてしまったかもしれないです。
安田 でも一般的にはそっちのほうが読みやすいし、共感も得やすいんですよ。多くの人に「やっぱりそうだよね」と安心してもらえるものになるとは思うんだけど、そうじゃないものを置いておきたかったんですよね。
ReoNa “いてほしい大人”として。
安田 そうそうそう。

すっかり話が弾んでしまう安田先生。
「人間脱いでる人いるー!」と思って
ReoNa あと、ちひろさんが言っていた「人間を脱ぐ」という表現が、当時私の中にあったモヤモヤに“言葉の正解”をくれた気がしていて。私は人と会って話すことは好きなほうなんですけど、人間を脱いでひとりになる時間も絶対に必要なんです。でも、「この日何してる?」と聞かれたときに「ひとりになる日」とはなかなか言えなくて。
安田 本来、それを言えない社会のほうがおかしいんだよ。「ひとりでいるのは寂しいことだ」「みんなでいたがるほうが正しい」と決めつける風潮を、僕は一番変えたかったんです。
ReoNa 当時は自分が矛盾しているようにも感じていましたし、相手に「私と一緒にいるのが嫌なのかな」と思わせたくもなかったですし……そんな時期にあの話を読んで、「あー! 人間脱いでる人いるー!」と思って(笑)。この感覚は自分だけのものじゃないんだと知って、うしろめたさがなくなりました。
安田 だいたいの人は、“人間という着ぐるみ”を着ている感覚すらない。そこに「人間を脱ぐ」という言葉を投げかけることで、「あ、これ脱げんの?」という驚きが生まれたらいいなと思って。
ReoNa まさにそれですね。「私、人間を脱ぎたかったんだ!」って、すごく腑に落ちました。
安田 誰も言ってくれないですもんね。
ReoNa 言ってくれないですねー。


誰も言ってくれなかったけど欲しかったものが、言葉になる。
枠からこぼれるのは悪いことではない
安田 ところで、どうして表現形態として歌を選んだんですか? 僕はたまたま絵を描くから漫画だったわけだけど……。
ReoNa 歌うこと自体は、物心ついた頃ぐらいからすごく好きだったんです。そこから大きくなっていって、心が柔らかかった時期の私に寄り添って救いをくれたものがアニメやアニソンでした。それで、高校に上がってから親にも言わずにアマチュアのアニソンカバーライブに出演し始めたのが、具体的な活動としては最初ですね。
安田 親には言えなかったってこと?
ReoNa はい。ちっちゃい頃に冗談混じりに言ったら、「そんなに甘いもんじゃないよ」って力強く否定されたことがあったので。幸い、私が高校生になる頃にはインターネットやSNSが普及していたので、家族や友人とは別のところに夢を持っていける環境があったんです。学校に行けなかったり、家族との不和があったりした中で……。
安田 ああ、学校行けなかったんだね。そっかそっか。
ReoNa 小学校4、5年生ぐらいのときにいじめに遭いまして。それまで皆勤賞だったんですけどガタンと行けなくなってしまい、そこから中学、高校もほぼほぼ行かずでした。
安田 そういう、枠からこぼれちゃう人にこそ僕は『ちひろさん』を読んでほしいわけ。こぼれるのは決して悪いことではなくて、むしろ僕はこぼれちゃう子が大好きだからさ。人として真っ当だからこぼれるのであって、そこに劣等感を持ってほしくないんです。逆に「優秀すぎてこぼれ落ちたんだ」ぐらいに考えてくれたらうれしいなと思っていて。


「こぼれちゃう」からこそ感じられる世界がある。
あのときの私が傷つく言葉は選びたくない
ReoNa 私がお歌を通して伝えたいのも、そういうことなんです。
安田 要は、一番苦しかったときの自分に届けたくて歌っているわけでしょう?
ReoNa まさにそうですね。言葉を選ぶうえでは、過去の自分が一番の指標になっている気がします。あのときの私が傷つく言葉は選びたくない。
安田 伝わる表現ってのは、そういうことなんですよね。昔の自分を助けたいと思って縄を投げるんだけど、実は同じ救いを求めている人がほかにもたくさんいて、その縄をつかんで一緒に助けあげられてしまう。
ReoNa 安田先生がご自分を救うための縄を、まんまと私もつかんでしまったんですね(笑)。
安田 そうそうそう。「お、かかったかかった」って(笑)。
ReoNa (笑)。本当に『ちひろさん』はすごく根本的なところの自分を作ってくれた作品なので、あの頃に出会えていてよかったなってすごく思います。
安田 そう言ってもらえると、描いた甲斐がありますね。
ReoNa 大人になってから出会っていたらきっとまた違う受け取り方をしていただろうし、当時の私に必要な出会いだったんだろうなって。私にとっては、お守りみたいな作品です。

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プロフィール
ReoNa(レオナ)
10月20日生まれ。“絶望系アニソンシンガー”を掲げる女性アーティスト。TVアニメ「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」にて神崎エルザの歌唱を担当しプレデビュー。2018年8月にはReoNa名義でTVアニメ「ハッピーシュガーライフ」のエンディングテーマを表題曲とした1stシングル「SWEET HURT」をリリースし、ソロデビューした。2026年3月7日には初の故郷凱旋ライブ「ReoNa Free Live 2026 in 奄美大島 “シマユイあまみ”」を開催。7月からは全国6都市を巡るオールスタンディングライブハウスツアー「ReoNa Live Tour 2026 “De:TOUR-動脈-”」が行われる。
ReoNa オフィシャルサイト:https://www.reona-reona.com/
ReoNa | ソニーミュージックオフィシャルサイト:https://www.sonymusic.co.jp/artist/ReoNa/
ReoNa (@xoxleoxox) | X:https://x.com/xoxleoxox
ReoNa official YouTube channel | YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCyUhtF50BuUjr2jOhxF3IjQ
エレガンスイブ2026年4月号では今回の対談の、安田先生描き下ろしルポ漫画も掲載しているので、ぜひ見てください。
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