かっぴー×ヒロユキ 物欲サイコー!! 『ブラパト!』1巻発売 記念対談【前編】
9月13日、『ブラパト! ブランドパトロール 本日も異常なし!』(原作・かっぴー/漫画・大久保ヒロミ)第1巻が刊行されました。発売を祝し、『カノジョも彼女』『アホガール』などのヒット作の作者で腕時計のコレクターとしても知られるヒロユキ先生とかっぴー先生の対談が実現。腕時計コレクションを見せ合う仲の2人が、大好きなブランドを追いかける楽しみを語ります。
取材・文:粟生こずえ
写真:石川真魚
物欲は恥ずかしくない!
「欲しいものがあるからがんばれる」ってカッコいいよね?
かっぴー 『ブラパト!』はぼくのエルメス通い体験をモデルにしたフィクションですが、ブランドあるあるのマンガではなくて。この作品には「物欲を肯定したい」という気持ちもこめています。ヒロユキさんは最初、高いものを買うのって後ろめたくなかったですか?
ヒロユキ はい。めちゃめちゃ後ろめたかったですね。今は慣れてきていますけど、それでもここまでの高額な時計は必須なものではないのはわかってる。それに対して自分はどこまで無理をすべきか、葛藤はいつもありますね。
かっぴー 人の目が気になりませんでしたか?
ヒロユキ 気にしましたね。初めてロレックスを買ったとき、編集さんの前ではつけてませんでした。
かっぴー すごく気にしますよね。「あの人、あんないい時計してる」「あら、エルメスお持ちなんですね」みたいな反応が来るかなと思うと、会う人や場所をすごく選んでしまう。
ヒロユキ そうです。最初のころは一人で楽しんでいました。
かっぴー 一人で楽しむのもいい趣味ではあるんですけど、「物欲が恥ずかしい」みたいな感じは変えていきたいと思っていて。「素敵なものが欲しい」と思う気持ちは純粋なはず。それを買うために「仕事がんばろう」と思うのって健全だと思うし。たとえば「オレはいつかフェラーリに乗るんだ」と思って、社長になってかなえるってカッコいいと思うんだけど。それを「お金持ちなんですね〜」みたいな目で見られちゃう葛藤も描きたいし、「欲しいものがあるからがんばるってシンプルでよくない?」って問うてみたい。
ヒロユキ すごくいいですよね!
かっぴー だから作中に折にふれて仕事のエピソードも入れてるんです。ぼくはヒロユキさんの時計コレクションに憧れてるし、マンガ家としてのヒロユキさんも尊敬してる。新しい時計を買われたと聞くと、「これでまたヒロユキさんの新作が読めるぞ〜」と思うしね(笑)。自分に負荷をかけてる姿もカッコいいですよ。
ヒロユキ 全然負荷はかけたくないんですけど(笑)。
かっぴー 楽しい地獄ですよね。
お金があっても買えるわけじゃない
その面白さにとりつかれて
──おふたりは時計が縁で知り合ったそうですね。
ヒロユキ はい。ぼくの著書『アニメ化4作品のマンガ家が腕時計にハマった結果5000万円の借金をつくった話』をかっぴーさんが読んでくださったのがきっかけです。
かっぴー この本を読んで、SNSのメッセージでやりとりさせていただいて。銀座で腕時計のコレクションを見せてもらう会をしたんです。そのときはヒロユキさんの案内で、ふだんぼくがこわくて入れない店に連れていってもらいましたよね。あ、でも、その前にもじつは一度銀座で会ってます。
ヒロユキ 銀座を歩いてたら、たまたまかっぴーさんを見つけて声をかけたんです。顔はインスタで拝見してましたから。奥様もごいっしょだったし間違いないと思って。
かっぴー 「よくわかりましたね」って言ったら「時計が…」っておっしゃって。
ヒロユキ 最近買ったというロレックスのエクワン(エクスプローラ―Ⅰ)を着けてらしたので。
かっぴー 「ははぁ、この人時計を見ながら歩いてるな」って思ったんですよ(笑)。
ヒロユキ いやいや、ホントに顔で気づいたんです(笑)。それにしても、時計とエルメスを掛け持ちでパトロールするのはたいへんじゃないですか?
かっぴー まぁ、ぼくもまさかエルパト(エルメスの店舗をパトロールすること)するようになるとは思っていなかったんですが。奥さんの影響でエルメスに興味を持ちはじめたんです。いきなりエルメスに行ってもバッグは買えないとは噂レベルで知ってたし、自分もロレックスに行ってそういう経験をしたことはありました。でも、「転売しそうにないお客だと信用してもらえれば出してもらえるだろう」と高をくくってたんですよね。お店に行ったらお客さんが行列を作ってる。そんな中、店員さんにズバッと「バーキンありますか?」って聞いたらーー「ないです」と即答で。
ヒロユキ うわぁ。それって、ロレックス入って「デイトナください」って言うのとまったく同じじゃないですか。ぼくは3回目でやっと店員さんに聞けたんですが、やっぱり返事は「ただいま在庫を切らしております」で!
かっぴー 周囲のお客さんたちの「それ言う?」みたいな冷たい空気もキツかった。奥さんも顔真っ赤…(笑)。
ヒロユキ 最初は買えないとショボンとしちゃいますよね。
かっぴー このとき感じた恥ずかしさが『ブラパト!』の第1話に凝縮されています(笑)。でもね、それから「どうしたら買えるのか」検証してみようと思って。ネットで調べたりしてーー何回目かでバッグを買えたんです。バーキンじゃないけど。そのとき「面白い!」と思っちゃったんですね。心理的駆け引きや自分の行動の選択肢によって成果が得られる。そういう一連のことが、まるでゲームみたいだと思って。それを「面白い経験談」としてマンガに描いてインスタにアップしたんです。そしたら、エルメス好きの編集者さんが声をかけてきた!
──それで『ブラパト!』の連載が決まったんですね。
かっぴー こんな形でエルメス好きの編集さんと出会って連載の話になるなんて、やるしかないでしょ? 作画の大久保ヒロミ先生が奇跡的にタイミングが合って受けてくださったのもめちゃくちゃラッキーでした。
かんたんに買えないからこその
濃厚な買い物体験
──なんでもネットでポチれる時代に、足しげく店に通って、店員さんとコミュニケーションして買い物をするというのも趣があると思います。
ヒロユキ ただ買うだけじゃなく、「体験」がありますね。
かっぴー このお店で、この店員さんとやりとりを重ねて「この日に買えた」という経験も買っているわけで。
ヒロユキ 実際、担当の店員さんとおしゃべりだけして「また来まーす」っていう日の方が多いですよ。
かっぴー 今では「あの時計よかったです」とかめっちゃ話したりしてね。パトロールはとにかくあきらめないことが大事。そういえば去年の誕生日に、ふと思ったんです。「誕生日をカードとして切れないか」って。で、ロレックスに行ってみた。「今日、誕生日なんですけど…何かないですかね?」って。
──お祝いのカードですね。
かっぴー でも「ないです」って(笑)。そう言われたらしょうがないんですけど、帰ってからもモヤモヤしてーー次の日、朝5時に目が覚めて「なんか悔しいなぁ」と思って。この日、もう一回行ったんです。開店前に並んだの、初めてでしたね。そしたらずっと欲しかった「GMT」の人気の色のが出てきたんですよ。あのとき、後ろ髪ひかれるように行ったのが正しかったのかな。こうなるとスピリチュアルっぽいですが。
ヒロユキ ぼくの場合、だいたい「今日はありそうな気がする」という日に行っても何もないです(笑)。誕生日は試したことないなぁ。一定以上の顧客だったら、あるのかもしれないけど。でも、そういうときにすすめられるのって「え、それすか?」みたいな気もする(笑)。
かっぴー たかが買い物なのにこんなにハードなの、なんか面白いですよね。夢中になるのはそういう種類の変態たちなのか? 金銭的な面だけじゃなく、通ったり気をつかったり、作戦考えたりして苦しむのを含めて面白いのかも。
ヒロユキ 本来は向こうが売りたいはずなのに、なんでこっちがそんなにがんばるのかって最初は違和感がありましたけど…。でも、結局は愛だなと思います。向こうがだれに売りたいのかを考えつつ、自分はだれなのかということと、愛を表現するのが大事なのかな。
かっぴー 深い。っていうか、買い物するのに愛を表現するとかおかしいんですけど!? でも、そこがやっぱり面白いんですね。
白熱するお二人のトークはまだ続きます!
後編へ続く
【かっぴー】
漫画家・漫画原作者。1985年神奈川県生まれ。株式会社なつやすみ代表。武蔵野美術大学を卒業後、大手広告会社に入社、アートディレクターを務める。WEB制作会社のプランナーに転職後、noteに掲載した漫画『フェイスブックポリス』が大きな話題となり、2016年に漫画家として独立。代表作は『左ききのエレン』(集英社)。現在連載中の作品に『左ききのエレン-DOPE-』(note)、『柳さん ごはんですよ』(集英社)。『ブラパト! ブランドパトロール 本日も異常なし!』(Souffle)で原作を担当。
【ヒロユキ】
漫画家。1982年石川県生まれ。代表作に『ドージンワーク』(芳文社)、『マンガ家さんとアシスタントさんと』(スクウェア・エニックス)、『アホガール』、『カノジョも彼女』(ともに講談社)などがある。この4作品はすべてアニメ化されている。2023年に腕時計コレクター遍歴を綴ったエッセイ『アニメ化4作品のマンガ家が腕時計にハマった結果5000万円の借金をつくった話』(ワニブックス)を上梓。
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