『月曜日のお寺ごはん』青江覚峰 浅草・緑泉寺のお坊さんによる人生相談
#54 好きな人ができません。
今週の相談:全く好きな人ができません。流れで人と交際したことはあるのですが、結局相手を好きになれないまま別れてきました。周囲がしている恋愛の話が楽しそうなのでその面白さを理解したく恋愛はしてみたいのですが、どうしたら好きな人ができますか?
恋愛って、3パターンあると思うんです。
恋に落ちるのにかかる時間の長さからいくと、まず一目惚れ、
それから言葉や行動など何かに惹かれて好きになるパターン、
そして、相手から好かれて絆されていつの間にか好きになっている、というパターン。
好きな人ができない、でも恋愛はしてみたい、というのであれば、このうちの3つ目のケースになるのでしょう。これには、他の2つとは全く違った心持ちが求められます。なぜなら他の2つが、好きになる予定ではなかった相手を、自発的に、偶然好きになるものであるのに対し、3つ目の恋愛は、その人を好きになるという前提で始める(始まるのではなく)ものだからです。求めるレベルの高さがハナから違うのです。
人を好きになるのって、自分の心のいちばん柔らかいところ、無防備なところを、きゅっと掴まれてしまうようなものです。自分のほうから、この人、と思ってそれを差し出すのならいいですが、相手から求められて明け渡すのはちょっと怖いもの。思い切りと覚悟が必要ですね。
そうなんです。自分を想ってくれている人を自分も好きになるには、思い切りと覚悟が必要なんです。どんな覚悟か。例えるなら、お正月に、知らないお店でちょっと高めの福袋を買うような、とでも言いましょうか。気軽に手を出すにはちょっとハードルが高いけれど、思い切って買ってみる。期待と不安を抱えながら家に帰り、袋を開けてみて、さあ、どうでしょう。期待どおりのものが入っているでしょうか。それともビミョーなラインナップなのか。福袋って、良くも悪くも後者であることが多いように感じます。あくまでも個人的な印象ですが。そんなとき、「これはハズレ」と切り捨ててしまいこんでしまいますか? それとも、「これはこれ」と割り切ってとりあえず身につけてみますか? もし、それっきりお蔵入りにするならそれまでのことですが、なんとか着こなそうと工夫したり、諦め半分で実用品として使い続けていれば、愛着が湧くかもしれませんし、誰かから褒められて魅力に気づくかもしれません。どうにも肌に合わず、結果的に処分するしかない場合も、きっとあるでしょう。
相手から思われて交際する場合は、自分のほうから心を開いていかなかれば何も始まりません。ただでさえ、恋愛感情を抱けるかどうかという高いハードルを課してからのスタートですから、見る目が厳しくなる分、意識して相手の良いところに注目し、それを尊重するようにしていく必要があるでしょう。
完ぺきな人などこの世にいません。一目惚れだって、まず見た目で好きになったはいいものの、よくよく知り合ってみたら気に入らないところがボロボロボロ出てくるかもしれません。でも、はじめに好きになっていたら、それもアバタもエクボと笑って受け入れられるでしょう。これが逆だったらそうはいかない。何か好ましくないところがあると、心の中で線を引いてしまいがちに。それでは「好き」になるのは難しいですよね。
いずれにしても、どうしたら好きな人ができますか、というお尋ねであれば、自分から好きになるのは偶然の産物ですから、めぐり合わせを待つしかありません、とお答えしましょう。誰かから思われて交際する幸いに恵まれたのなら、自分から心を開いていく思い切りの良さが必要でしょう。
ひとつ気になったのは、質問者さんが「恋愛の面白さを理解したい」とおっしゃっていることです。恋愛にはたしかに面白い部分があります。人と人との関係は公式に当てはめることができませんから、そのような意味では、「面白さ」があるとも言えるでしょう。でも、間違えないでいただきたいのは、恋愛がなぜ面白いかと言うと、好きな人や、興味のある相手と共にいるから面白い、楽しいと感じるということです。「好きです、つきあってください」「はい、わかりました」とかたちの上で恋人にはなっても、お互いに真心で触れ合わなければ、恋愛の楽しさなどありません。そして、本当の意味で人を好きになったら、楽しいだけでなく、寂しいことにも悲しいことにも悔しいことにも、山ほど行き当たることでしょう。それでも、この人とだから乗り越えられる、そこに幸いを見いだせる、それが恋愛ではないでしょうか。
次回は12月23日更新です。
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