『「もえこと畑とお寺ごはん」がもっと楽しく! 萌飯コラム』青江覚峰 料理僧として活躍する緑泉寺住職の美味しいコラム!
#1 ヤブカンゾウにさそわれて

道端の草とは思えない甘みがある、素朴で美味しい食材が「ヤブカンゾウ」。実際に畑に行って、空気を吸い、土に触れる。そんな素敵な体験をとおして、野菜を楽しんでみてはいかがでしょうか。
エレガンスイブ2025年12月号より新連載「もえこと畑とお寺ごはん」がはじまりました! かねもり先生とは「サチのお寺ごはん」以来にご一緒させていただけることになりました、監修の青江覚峰です。
今回は「お寺ごはん」の前に「畑」がついているとおり、一つひとつの野菜にぎゅぎゅっとフォーカスし、もえこが野菜たちとどんなふうに出会い、関わっていくのかを描いていく作品になりそうです。
さて、この企画はかねもり先生ご自身の「農業」を扱う作品にしたい! との想いから立ち上がりました。農業は何かと話題の分野でもありますし、「食材とじっくり向き合うことを通して自分を見つめる」という「サチの〜」から継続しているテーマにもぴったりです。
「これは面白い作品になるだろうな」という期待を胸に、先生と編集担当者さん、そして私の3人で郊外の畑に取材に伺いました。
東京から車を走らせること、およそ2時間。まもなく盛夏を迎えるという時期。雲ひとつない青空が広がる、暑い暑い日でした。畑につくと、入口には野菜の無人販売コーナが。そこに無造作に並んでいるナスやきゅうりが目に入ります。その美味しそうなことと言ったら! さらに進めば、畑にはナスやきゅうりの他、ズッキーニやピーマンなど色とりどりの野菜たちがつやつやと実っていて、見るからにビタミンたっぷり、体の奥から元気になれそう!

おいしそうな野菜がいっぱいです!
……と、ふとかねもり先生が畑の敷地内に生えている草に目を留めたのが見えました。
「あれ? なんかこれ、食べたことある気がする……」
しゃがみ込んでそっと触れているのはヤブカンゾウの蕾です。
ヤブカンゾウ。聞き慣れない名前かもしれませんが、「金針菜」と聞けばピンとくる方もいらっしゃるでしょう。インゲンやサヤエンドウに似た、あるいはシシトウを小さくしたような形で、よく中華料理で炒め物として出される野菜。それが、このヤブカンゾウの蕾です。
それほど珍しいものではなく川沿いの道などに普通に生えていて、観賞用にもされるほど美しいオレンジ色の花が咲く多年草の一種です。実際わたしも幼い頃、学校の帰りに摘み取って齧ったことがあります。正式には「藪萱草」ですが、「藪甘草」と書かれることもあるくらい道端の草とは思えない甘みがあり、こども心に特別なものを見つけたような高揚感を覚えたものです。

道端にみのっていた「ヤブカンゾウ」!
食べてもよいものかどうか畑の方に確認し、せっかくなのでぷつりと摘んで口に入れてみます。その瞬間、かねもり先生が「うわあ!」と声を上げました。甘く、けれど野草独特の苦みもあり、なんといってもこれ以上ない新鮮な味わい。思わず声が出るのも納得です。
そのときの感動が先生の心にも残ったのでしょうか。記念すべき新連載、その第一回で取り上げるのはこの「ヤブカンゾウ」になりました。
これこそ実際に畑に行って、空気を吸い、土に触れた体験がなければ起こり得なかったことです。周りには食卓の主役になれそうな野菜が溢れているのに、他のどんなものより先生の心に響いたのは、路傍の野草だったのです。
何かを食べたい、何かを作りたい。そう思ったとき、アイデアを拾おうとインターネットで検索することも少なくない昨今。私自身もそのひとりです。画面の中にはありとあらゆる情報が溢れていて、お馴染みの野菜から珍しいもの、調理のコツや味付けのアイデア、手の込んだアレンジなど、見ているだけでお腹いっぱいになりそうな情報がいくらでも手に入ります。
そんな暮らしの中で、畑の区画から外れた道端の野草の蕾に誰が心を向けるでしょうか。
けれど、あの日あの畑で先生はヤブカンゾウの蕾の素朴な味わいに心を打たれ、それを作品として描いてくださいました。読者の皆さまにも、そのときめきが伝われば幸いです。
新連載「もえこと畑とお寺ごはん」はきっと、そんな土と風の匂いを感じてもらえる、ときに爽やかな、ときにみずみずしく、ときには少し汗臭い(?)作品になるでしょう。
さて、次回はどんな野菜との出会いが待っているでしょうか。
これからもどうぞお楽しみに!
次回は11月26日更新です。
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