『セトウツミ コノモトメモ』 此元和津也 『セトウツミ』の作者自身によるレビューエッセイ!
#4 無理かも (『第4話 威嚇と擬態』)
舞台化記念! セトウツミの作者・此元和津也が1話ごとの裏話と思い出を漫画と共に語るレビューエッセイ。
レビュー後の漫画とあわせてお楽しみください!
無理かも
このエッセイを始める前の打ち合わせで担当編集者のS子さんが言った。
「不定期連載ということにしますか?」
「1巻分ぐらいは毎週更新でいけますよ」
言ってしまったあとも、本気でいけると思っていた。
別に文字数も決まってないし。起承転結も整合性もいらないし。
ちょっとした心の揺らぎを大げさにして、エモーショナルでコーティングされた吐瀉物みたいな駄文を連ねるだけなら、毎週更新なんて余裕でいける。
いや、無理かも。
節目節目では思い出も多少はあるけど、さすがにこのテンションで毎回書けるほど覚えてないし、他の仕事をしながらの週一締め切りはきつい。
それに最近気づいた。「コノモトメモ」というポップなタイトルに、ジメジメとした熱の高い本文が挟まり、その後読める漫画がめちゃめちゃ平熱で乾いている。というこの構成は、とても面白いと思ったけど、この順番だとあまり内容に触れることができない。
無理かも。
ストックがなくなりかけたこのタイミングで、舞台セトウツミを観た。
まず消費者としての立場で言うと、僕は原作至上主義だ。大好きだった作品が蹂躙され、面白かったはずのものが面白くないものとされる瞬間を何度か見た。
脳内にあるイメージを原稿にした時点ですでに劣化してるのに、それをまた他人が薄めて発表するメディアミックスというものを、あまり信用してなかった。
そして作家として、立場を表明するのはとても難しいけれど、ひとつの到達点でもある反面、よくわからない大きなものに翻弄され、絶対に言ってはいけないけれど、もうブックオフとかでいいから原作買って読んでくれ、と心は摩耗される。
「セトウツミ」は映画化もドラマ化もされたけど、その話はこの連載が続いていたら詳しく触れるとして、ひとつだけ言えるとするならば、そのコンテンツで戦っている最中にいると、面白いとか面白くないとか判断できる状態にはいないということ。
そしてこのタイミングで、舞台セトウツミを観た。
「ちくしょお面白いのかよ」
様々な感情が駆け巡ったけど、簡潔に言葉にするとこうなる。
正直に言うと、あまり関心はなかった。忙殺される日々の中、手を離れて数年経つ作品の舞台化のお知らせは「今更なに?」だったし、でも光を当ててくれるのは嬉しいことだと思うから、自由に、好きなようにやってほしくて、編集部から逐一来るすべての申し入れや確認事項に半年間ただただ「問題ありません」と返していた。
事前に送られてきた台本も読んでない。
カーテンコールの万雷の拍手のあと、ぞろぞろと立ち去る観客が向かう先にいた、一際背の高いプロデューサーみたいな人に促され、役者さんたちの控室に向かった。
いただいた大入り袋を、お年玉を貰ったかのように、すぐに開けていいか確認した僕に「あんまりそういうことする人はいない」
と優しくたしなめてくれたあの演劇関係者界一背の高いプロデューサーみたいな人と共に「此元さんが来てること内緒にしてるんですよ」と必要か不要かわからないプチサプライズを携えて、挨拶に向かった。
オバケを見るような顔で出迎えてくれた役者さんやスタッフの皆さんに向かって「面白かったです」としか言えなかった僕こそ、オバケを見るような顔をしてたと思う。
この人たちは何者?人の頭に不法侵入してきて鷲掴みしたイメージを片手に、正解はこれでしょ?と提示してきたような恐怖感。
その後、一緒に観劇したS子さんと、あと友達なのかなんなのかわからない人たちと朝まで飲んで、そして吐いた。
あんな笑い声と喝采を、命を削って描いていた当時に聞くことができなかった作家という職業の物悲しさと。
嫌がらせのように書いたはずのスタンディングオベーションをさせられるという過去の自分からの復讐と。
舞台化記念という名目で始まったこの連載を、舞台が終わった今続けていくための大幅なモチベーションの低下と。
様々なものが、らせん状にぐるぐると流れていく。
確かにそこにいた。瀬戸と内海が生命を宿し、躍動していた。
観に行くかどうかすら、ギリギリまで迷ってたのに。
諸々を、簡潔に言葉にするとこうなる。
「ちくしょお面白いのかよ」
そして第4話。
「フシがある」という言葉のみに焦点を当てた16ページ。良いと思う。
何をしても面白くなるフェーズに突入するための下ごしらえが完了しつつある。
瀬戸と内海に血液が流れ出し、セトウツミが胎動を始めた。
いけるかも。
漫画 『セトウツミ 第4話 威嚇と擬態』はこちらから
【漫画部分の公開は終了しました】
次回は6月30日更新です。
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