自意識の刃で、焼け野原!? コナリミサト×冬野梅子 話題作家の初対談!
さまざまなフィールドで活躍する、素敵なクリエイターさんを漫画家・コナリミサト先生がお迎えする連続対談企画「スナック・コナリ」。
今回のゲストは前作『まじめな会社員』(講談社)が各所で話題沸騰し、最新作『スルーロマンス』(講談社)第1巻がいよいよ発売となる漫画家・冬野梅子さん。
それぞれに現代を鋭く描いてきたお2人の対談を聞いたら、いつもの風景の見え方が変わる…かも?
今日はまだ外が明るいですが……さっそく開店します!
コナリ先生の、おもてなしカクテルは…
『冬野梅子さんへ捧ぐ 梅酒ミントのシャリ酒』!
~おもてなしカクテルができるまで byコナリミサト~
お名前から連想した梅酒と冬野さんが東北生まれとお聞きしたので 冬→雪 をイメージして作ってみました。梅酒は濃すぎるとうまいこと凍らないので水割りで。ミントの葉っぱをインするのはニューアーバン(※「スナック・コナリ」の収録場所としてお借りしているスナック)のママのアイディアです。梅酒のシャリシャリの口当たりとミントがさわやかなので夏の暑い日におすすめです。
乾杯したら、対談スタートです。
コナリ 『まじめな会社員』は刺さるところがいっぱいで……特にズキュンと撃たれたのは、主人公のあみ子ちゃんが「話題どろぼう」を指摘されてるところとか。胸が痛みます。
冬野 自分の「やっちゃったなぁ」っていう経験を思い出しながら描いてるんです。話題どろぼうは、お酒が入ってたりするとやっちゃいがちですね。あと「同じことを2回言う」とか。
コナリ 「2回言う」って?
冬野 多人数で盛り上がってるところで「あ〜、それ○○みたいだね!」とか言ったとき、ザワザワしてて聞き流されたりするじゃないですか。そういうとき、もう一回言っちゃって、すごく「拾ってほしい人」みたいになっちゃう。
コナリ めちゃくちゃかわいいじゃないですか。
冬野 いやいやはずかしいですよ。「私、今2回言っちゃった」って。それを気づかれてないかと思うとこわくて。
コナリ そういうハッとしたことを覚えておいて、恥部を見せることで私たちを刺してくれてる?
冬野 「こういうの私だけじゃないよね?」って聞きたい気持ちもあります。
コナリ 「気をつけよう!」って思いますよ。話題どろぼうとかは身に覚えがあるので、読みながら「ごめん!」って。あみ子ちゃんが友達グループにやんわり避けられるようになった原因がそういうところにあったりするのもわかるし。
冬野 人が離れるのって、そういう小さい違和感の蓄積のせいじゃないかと思うんです。なんとなく疎遠になる友達……ケンカをしたわけではないけど「そういえば会わなくなったな」という人を思い返すと、自分が連絡を取らなくなったのも事実だけど、もう一方では確実に相手からも切られてることになるんだと。
コナリ 大人になるとわざわざ「あなたのここが不快です」なんて言わないから、省みる機会もないですよね。それはやさしさなのかな?
冬野 バトりたくないから自然消滅に持ちこむんですよ。
コナリ 読んでて「うっ!」て思いもしますけど「気をつけよう、ちゃんとして生きていこう」って気づかされますから……『まじめな会社員』のおかげで同じ轍を踏まずにすんだ人、いっぱいいると思いますよ。実際は血まみれになりながら描いてるんですね。
──「ハッとしたことを描く」が作品を生む原動力になっているのでしょうか。
冬野 私はデビューしたのが「清野とおるエッセイ漫画大賞」(期待賞受賞・講談社)だったんですが。清野さんの名前を冠した賞なら悪い主人公でも大丈夫そうだなと思って描いたのが『マッチングアプリで会った人だろ!』という作品です。「まわりのことを悪く言ってる主人公が一番ダメ」という構図がギャグになっている……その形を踏襲している感じですね。
コナリ 新作の『スルーロマンス』は、女性2人のルームシェアという設定もあいまって『まじめな会社員』より若干、刃がマイルドな感じもします。
冬野 『まじめな会社員』より軽くポップにしたくて。あんまり鬱にならずに読めるように心がけて。でも鬱になるのもサービスなんじゃないかと思ったりして。
コナリ でも、登場人物を掘り下げて描く視点の鋭さがすごすぎます。『あなたの借りは愛だけ』(Souffle/秋田書店)にも言えますけど。いつも、多彩なキャラクターをどうやって考えているのかなと思います。
冬野 『あなたの借りは愛だけ』は『まじめな会社員』の連載が終わって、何を描いていいかわからないときだったので、「自分と遠いところから着想しよう」みたいな努力のあとが見えちゃってる作品ですね。苦心のあとが見えるのってプロとしてはどうかと思うんですが。これは「家、ついて行ってイイですか?」(テレビ東京のTV番組)に出てきたカップルをモデルに、設定を変えてふくらませて描いています。
コナリ なるほど、そういうテレビ番組とかも参考にしたりするんですね!
冬野 『凪のお暇』を読んで強く思ったことがあるんですが。慎二みたいなキャラクターを出すのってこわくないですか? あんな振り切ったキャラクターを出しちゃったら暴挙を止められなくなりそうで。
コナリ そう言われたのは初めてです(笑)。冬野さんが慎二みたいなキャラを描くとしたら止まらなくなっちゃうという恐怖?
冬野 描けないと思います。脳内のもう1人の自分から「そんな人いるの?」「それやればウケると思ったでしょ?」みたいな横槍が入って、ヌルい中途半端なキャラにしてしまうんじゃないかな。
コナリ 自意識のジャッジが働くんですかね?
冬野 ヤバいキャラを出すのは大サービスですよね。でも、自分はサービスより守りに入って、結果つまらないキャラになってしまいそう。あるいは、ヤバいキャラを私がコントロールしきれなくなって最後のボタンを押すとこまでいっちゃいそうで。そんな危険な武器は持てないです!
コナリ ボタンを押すって(笑)。冬野さんがそのボタンを押したらどうなると思います?
──第3次世界大戦後の世界みたいな?
冬野 焼け野原ですね。そこまでいくと、もう読者が思い入れできないキャラになっちゃう。プロはヤバいキャラを描いてもギリギリで寸止めして「ひどいヤツだけど愛したい」というところで収めるんじゃないかと。こんな危険なキャラクターをよく描けるなぁと思いますよ。
コナリ あ、なるほど。そういう意味でしたか! 肝に銘じて描き進めて行きます!
──冬野先生は、もともと描き手に感情移入して読む方なんですか?
冬野 私はわりと小さいころからそういうところがあります。最初に「作る側」を意識したときに「そっち側」の人になりたいと思って、少々背伸びをした視点が定着しちゃったのかな。映画を観ても「監督! なんでこんなことさせるの?」とか思ったりしがちですね。
コナリ 冬野さんは小さいころから絵を描くのが好きだったんですか?
冬野 絵を描くのが好きだと思ってましたね。一人っ子でしたし、家でひとりでできるから。親も「よく描けたね」とほめてくれるし。それで、中学では美術部に入って「ここから私の才能が開花してしまう〜!」とか思ってたんですけど、そうはならなかったです(笑)。というかユルい部で、絵に打ちこむっていうノリじゃなかったこともあるんですが……自分もそんなにやる気がないのがわかっちゃいました。部の友達としゃべってるだけで楽しかったので。
──自分を分析する目がシャープなのは昔からだったんですね。
冬野 高校に入って別の娯楽が増えると、さらに絵を描こうと思わなくなったので「別に絵を描くのが好きでもなかったんだ」と。子どものころは絵を描く遊びしか知らなかっただけだったんだと気づきました。
コナリ 高校生になるとほかのカルチャーが入ってくるんですね。音楽とか?
冬野 映画ですね。ちょうどTSUTAYAの100円レンタルが始まるタイミングだったのもあって。でも、それも大学に入ると「あの頃はほかに娯楽がなかったからだ」と気づくんです。大学に入って東京に出ると、友達も増えたり、バイトもあったりで行動範囲が広がったので。
コナリ ああ……でも、TSUTAYAと聞くと、あの頃の記憶がよみがえりますね。『バッファロー’66』を観てるとオシャレ、とか。好きになった男の子の部屋のトイレにあのポスターが貼ってあったの、思い出しちゃいました。
冬野 『バッファロー’66』! 高校生のとき、主人公の生きづらさに憧れて「私も生きづらい人間になりたい」とか思ってました(笑)。主人公が「もう俺は生きていけない」みたいな気持ちに襲われてファミレスのトイレで泣いたりする。そういうの本当は理解できないんですけど、むりやり「わかる…」って思おうとしたり。
コナリ あ〜(笑)。
冬野 映画の中の人の悩みは深くて本当にいいなぁ、なんて美しいんだろうって。なのに、自分にはなんでこんなショボい悩みしかないんだろう、と。当時はせいぜい「田舎はつまらない」「親に怒られる」「部活の先輩がこわい」レベルの悩みしかなかったので、憧れでしたね。
コナリ 漫画は読んでました?
冬野 子どもの頃は読んでましたけど、大学くらいからあまり読まなくなって。社会人になってからもあまり……。
──漫画から離れていた時期が長かったのに漫画を描くに至ったきっかけは?
冬野 漠然と何かを発信したい気持ちはあったので、日記としてブログを書いたりはしていました。あるときコミティアの存在を知って。「こういう世界があるんだ。素人が漫画を描いて売ってもOKなんだ」と。「漫画の方がいろんな人に気軽に読んでもらえるかも?」という気持ちもありましたね。
──冬野先生は長く会社員としてお勤めされていたそうですね。
冬野 はい、やめたのは『まじめな会社員』の連載が決まってからです。会社員は毎日憂鬱でしたね。業務は辛くないんですけど、まわりの人とのやりとりのストレスが大きくて。質問ひとつするにも上司の様子をうかがわなくちゃいけない。かと思えば気をつかってタイミングを見計らったのに、困った人を見る目で「すぐ聞いていいのに」と怒り気味に言う人もいるんです。このさじ加減が人によって違うからものすごく複雑で……なんでこんなことに労力を使わなきゃいけないのかと。専業漫画家になって「だれの様子をうかがわなくてもいい仕事があるんだ!」と驚きましたよ。2年たった今でも愕然としているくらい(笑)。
──会社員時代の疑問が漫画にも昇華したわけですね。今となっては。
冬野 今となっては(笑)。コナリさんはお勤めの経験は?
コナリ 私は高校を卒業して雑貨屋さんに就職したんですけど、早々に人と働くのは無理だなって思いました。私は何かあると「自分のせいで」って思いやすいみたいで、そこにダメージを受けることも多かったです。
冬野 自分のせいで上司が頭下げるのって、いたたまれないですよね。
コナリ 雑貨屋さんで働いてたときにやらかしたと言えば……。電源を入れるとハムスターが音楽に乗って「ウー!ハー!」って言いながらヌンチャク振り回すおもちゃがあったんですけど。
冬野 え? なんですかそれ(笑)。
コナリ 私がそれを電源入れたまま棚の隙間に落として帰っちゃって。一晩中「ウー!ハー!」ってビルに鳴り響いてたってクレームが来たんですよ(笑)。これ、全然私のせいなんですけど、上司が謝ってるのが申し訳なくて。
冬野 自分が責任を取れたらどんなにいいかって思いますよね。「小指で勘弁してください」みたいな気持ちに……。
──冬野先生からはときどき物騒なキーワードが出てきますね。
冬野 それは……私、今日「天使」のかっこうしてるじゃないですか。これって、何かがやましいからなんですよね。今日、この服を着て思ったんです。「私、今日、何を偽りたいんだろう」って。
冬野 逆に、黒い服のコナリさんはピュアさを隠したいのかなって思いました。
コナリ え……そういうつもりはないつもりですけど……そうなんですかね? うわ〜、なんかすみません。では、これが今日のオチということで(笑)。
冬野先生、本日は「スナック・コナリ」にお越しいただき、ありがとうございました!
(取材・文/粟生こずえ 写真/竹中智也)
冬野梅子先生のSouffle連載作品『あなたの借りは愛だけ』全3話が無料公開中!
スナックコナリ バックナンバー
第1回 板垣巴留先生「サンタクロースにお願いしたいものは?」
https://souffle.life/topics/souffle-special/20211216-2/
第2回 鶴谷香央理先生「どの作品も、ほのぼのだけでは終わらない。」
https://souffle.life/topics/souffle-special/20220616/
第3回 渋谷直角先生 「たまに思い出して『ああ!』ってなることあるじゃないですか。」
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