TVアニメ「天幕のジャードゥーガル」 トマトスープ先生×Abel Gongora監督 スペシャル対談
TVアニメ「天幕のジャードゥーガル」の放送が大好評ということでトマトスープ先生とAbel Gongora監督のスペシャル対談をお届け! アニメと漫画での表現の違いなどを熱く語っていただきました!

毎週土曜 夜11時30分〜
テレビ朝日系全国24局ネット”IMAnimation”枠・BS朝日ほかにて放送!

プロフィール

・Abel Gongora
スペイン出身。アイルランド、フランスのアニメーションスタジオでアニメ―タ―として活躍後、サイエンスSARUに入社。『きみと、波にのれたら』(2019) 主題歌 Generations from EXILE tribe「Brand New Story」のMVで初監督。以降、スター・ウォーズ: ビジョンズ「T0-B1」(2021) 、Netflixシリーズ「スコット・ピルグリム テイクス・オフ」(2023) で監督を務める。「ダンダダン」第1期 (2024)では OPアニメーションを手掛け、第2期 (2025)では山代風我とともに監督を務めた。「天幕のジャードゥーガル」では監督を務める。

・トマトスープ
多摩美術大学出身。主に中世~近世の世界史をテーマとしたマンガを制作。デビュー作『ダンピアのおいしい冒険』(イースト・プレス、全6巻)が『宝島社 このマンガがすごい!2021』オトコ編第6位を獲得。現在、『Souffle』にて連載中の『天幕のジャードゥーガル』(秋田書店、既刊5巻)は『宝島社 このマンガがすごい!2023』オンナ編第1位を獲得し、「第55回日本漫画家協会賞コミック部門大賞」を受賞。他に『WINGS』にて『奸臣スムバト』(新書館、既刊1巻)を連載中。
ペルシアの美しい町並みを見せながら、シタラの気持ちを深掘りできるようなシーンに
トマトスープ先生(以下、ト) 本当にすごく……すごく魅力的なアニメになっていてびっくりしました。第1話の冒頭のシーンがすごく素敵で!
アベル・ゴンゴラ監督(以下、ア) シタラがトゥースの町を逃げ回るところですよね。当時のペルシアの美しい町並みを見せながら、シタラの気持ちを深掘りできるようなシーンになったと思います。当時のシタラは奴隷として売られたり、買われたりしている身なんですけど、それでもなお、大人になってもあの時代のことを恋しく思ってる理由を、しっかりと描いておきたかったんです。
ト アニメオリジナルの要素としてあれを入れていただいたことで、最初から心を掴まれるといいますか、没入感が一気に高まるようで、とても感動しました。
ア この作品を担当することになってから改めてペルシアの歴史を学んだのですが、調べれば調べるほど大きな魅力を感じました。だからシタラが子ども時代を過ごしたトゥースも、本当に魅力的な土地だったのだろうと思うようになったんです。さらっと流してしまうのはもったいないと、ちょっと膨らませてみました。

シタラの目を通して描かれるトゥースの街並み
ト クリルタイのシーンでも、私が描ききれなかった群衆の描写とか、ページの都合で描けなかったその場の賑わいみたいなところもしっかり補完していただいて……。そこに生きている人たちがすごく活き活きと描かれていたんです。
ア ありがとうございます。うれしいです。
ト 私もすごくうれしいです。でも全体としては原作に忠実に作っていただいていて、その中でアニメにしかできない演出だとか、アニメならでは持ち味を出していただけるのは、とってもありがたいですね。
ア そこまで大きな変更は施していませんが、マンガを映像化するにあたって、色がついたり、デザインの変更が入ったりすることで、マンガとは見た目が変わるところはあるかなと思います。キャラクターの動きによっても、原作のコマとは感じ方が変わってくるでしょうね。
ト アニメとマンガの作り方が全然違うということが本当によくわかりました。アニメを制作するにあたっていろいろと質問をいただくのですが、自分一人だと気づかないところもたくさんありました。たとえばゲルの絵を描くにしても、アニメーションだとたくさんのスタッフの方が関わりますから、再現性を保つためにも、立体物としてちゃんと理解しないといけない。でも、私一人で描いているときは、マンガは平面でしかないので、多少構造がおかしくても、絵としてきれいに見えればいいやと思って描いているんです。こういうことがアニメの現場では通用しないんだなと、つくづく感じました。
ア アニメとマンガは似ているもののように思われがちですが、全然違うんですよね。私は子どものころはマンガ家に憧れていたんですけど、難しすぎて諦めたんです(笑)。

アニメで表現されるゲル
「自由」というテーマをもう少し強く押し出したいと思ったんですね。
ト アニメ制作の現場ではこんなにたくさんの人たちが働いているんだということにびっくりしました。私が半分くらいは趣味みたいなものと思って楽しく描いていたマンガが、多くの人の手ですごくちゃんとしたコンテンツにしてもらえるという事実に、恐れおののきました(笑)。ゴンゴラさんの「監督」というポジションは、そうしたたくさんのスタッフがいるところを、全体的に総括していくというのがおもなお仕事なんでしょうか?
ア そうですね。外の人からは見えにくいかもしれないんですけど、アニメシリーズの場合は話数ごとに演出家がいて、その人たちの自分の個性や解釈を反映して1話を作り上げます。もちろん柔軟に作ってもらいたいのですが、ある程度は統一感やルールも必要ですよね。それで各話の絵コンテを私と山田(尚子総監督)さんでチェックして、必要に応じて加筆したりとか、語り方を調整したりとかすることもあります。監督と総監督は、目指したい方向や描きたいスタイルをいちばん理解している立場なので、そこからブレないように整えるんです。
ト 最初にお会いした時に、どういう意図を持った作品なのかといろいろ聞いていただきましたが、監督にとってアニメーションとしての『天幕のジャードゥーガル』が目指すところはどこになるんでしょうか?
ア 「自由」というテーマをもう少し強く押し出したいと思ったんですね。先ほどもお話ししたオープニング代わりのあのシーンで、シタラが飛んでいく鳥たちを見て笑う。そこでまず自由への憧れを描きたかったんです。
ト 「奴隷」という身分の描き方が難しいんですよね。この作品は奴隷制を肯定しているようにも見えてしまう。一方で、いやいや、奴隷はやはり問題だっていうところをどこかに忍ばせておきたいと常に考えて描いてはいますが、そのあたりの葛藤を、自由への憧れという点で汲んでいただけたのかなと考えています。
ア この問題は非常に複雑で、作品のメッセージとしては「奴隷制=悪」ということが言いたいわけではないですよね。歴史的な背景を理解しないと言及しにくいことだと思いますし、現代から見たらよくないよねという意見にもなるのでしょうけど、事実として当時の社会はそういうふうに成り立っていたわけです。アニメでは、最初に奴隷である主人公が自由に憧れるという描写をしたうえで、後に状況が複雑化していく中、その思いも複雑になっていくように描きたいと考えています。
ト 奴隷制というものをそのまま肯定もできないし、かといって一概に否定もできないのと同じように、自由もまた、とてもいいもののように思われがちだけれど、一方で大きな責任を伴うものでもあります。この先、シタラがそういうことを学んでいく出発点として、飛ぶ鳥たちに自由を夢見るという無邪気な描写があるのは、とても美しいなと思いました。

トゥースの街を飛んでいく鳥たちが情感をかきたてる

自由に飛んでいく鳥たちを見て笑うシタラ
人を助けるようなやさしさもありますが、同時にちょっと意地悪なところもある
ト お好きなキャラクターは見つかりましたか?
ア シラが好きです。数少ないサマルカンド人。人を助けるようなやさしさもありますが、同時にちょっと意地悪なところもある。イケメンですし、特別ななにかを持っているような、魅力のあるキャラですよね。
ト ありがとうございます。アニメのシラもすごく活き活きとしていて、かわいらしいキャラだと思いました。モンゴルやペルシアの文化や自然に関してはいかがですか?
ア モンゴルにはいつか行ってみたいと思っていたので、ロケハンで訪れることができたのはラッキーでした(笑)。ペルシアに関しては、だいぶイメージが変わりましたね。建築や文化、歴史を調べれば調べるほど、圧倒されました。同時にイランの映画の数多くの傑作にも出会えました。歴史的にも、現代においても、ペルシア/イランは複雑な国だと思います。今も本当に大変な時期で、ニュースを見るたびに心が痛みます。
ト イランやモンゴルといった国を遠い存在だと思っている人たちに、この作品をきっかけとして、少しでも興味を持ってもらえたらうれしいです。そこに人が生きていて、われわれと違うところもあるし、同じところもある、ということを「発見」していただけたらうれしいですね。私も描きながらそれを発見していった一人なので。
ア そうですね。この作品に参加できたことを本当に光栄に思います。ありがとうございました。

やさしさと、したたかさを持つシラ
文・構成/小田真琴
©トマトスープ(秋田書店)/天幕のジャードゥーガル製作委員会
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