#2 がん治療における保険診療と自由診療について | Souffle(スーフル)
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コラム 2023.11.20

『おはよう、おやすみ、また明日。がんのお金相談室』清水公一 「がん」でかかるお金のリアルがわかる!

#2 がん治療における保険診療と自由診療について

『おはよう、おやすみ、また明日。がんのお金相談室』清水公一

肺がんサバイバーの社会保険労務士・清水公一さんによる、「がん」についてのお金のコラム。

このコラムを読んでいる人は、自分または身内・友人などの知り合いが、がんになってしまった方も多いと思います。でも保険診療と自由診療の違いについてどこまで知っているでしょうか。このことを知ることにより、患者さん本人はもちろん、身内・友人などが、治ってほしい一心で効果のない高額な自由診療を大切な人に勧めるようなことがなくなればいいなぁって思います。

今回のコラムはがん治療における、公的保険が使える保険診療と公的保険が使えない自由診療について、その両方を体験したことがある僕の経験を交えながら書いていこうと思います。

保険診療と自由診療の違い

保険診療とは、前回のコラムで解説した、保険証を見せると、自己負担が医療費総額の3割になったり、医療費が高額になった場合、高額療養費制度が利用できる治療のことです。どうすれば保険診療になるかというと、人を対象にして治療法や薬、医療機器について臨床試験を日本で実施し、安全性、有効性が客観的なデータで確認でき、厚生労働省の審査で認められなければなりません。これがいわゆる保険診療は「エビデンス」があるといわれるゆえんです。

そのための臨床試験には時間がかかる場合が多く、薬を開発したからといって、すぐに人に使うことはできません。言い方を変えると、新薬を開発する場合、動物実験をしてから、人体実験(臨床試験)をして、安全性、有効性が認められなければ、保険診療になることはなく、20年以上かかることもザラです。保険診療になったということは、いわば、国がお墨付きを与えた治療ということになります。

かたや自由診療は日本で臨床試験をしているわけではないので、安全性、有効性が客観的なデータで証明されたわけではありません。そのため、保険診療のように安全性、有効性が担保されたものではなく、とくにがん治療においては、効果が疑わしい薬や治療法を高額な費用で実施している施設も少なからずあります。

なお、海外で認められている薬で、日本で保険承認されていない薬を未承認薬と呼びます。この未承認薬を使用することも自由診療になります。これはドラッグ・ラグといわれて問題になることがありますが、それはまた別の機会に。

□先進医療とは
自由診療と同じく医療費は全額自己負担になりますが、厚生労働大臣が承認した先進性の高い高度の医療技術で保険診療になっていないものが、先進医療と呼ばれるものです。先進医療医療は公的医療保険の対象にするかどうか評価している治療や療養、技術であり、実施施設も厚生労働大臣が認めた施設で実施することになります。がん治療だと重粒子線治療や陽子線治療の多くは先進医療に該当します。ただ、一部のがん治療においては2016年から保険適用となり、その後も徐々に保険適用のがん治療が拡大されました。現在、保険適用となる重粒子線・陽子線治療はこちらのリンクを参照してください。
https://www.jastro.or.jp/medicalpersonnel/particle_beam/2022/07/post-10.html
しかし、転移を認めるがんの多くは保険適用にはなっていないのが現状です。

保険診療である標準治療が1番いい治療

がん治療においては、がんの部位や種類ごとに診療ガイドラインがあります。そのガイドラインにある治療が標準治療となります。標準治療は臨床試験により、安全性を認め、有効性を競い合って、臨床試験の結果により効果が高いものの推奨度が上がります。下記が卵巣癌・卵管癌・腹膜癌のガイドラインおけるフローチャートです。医療者用のガイドラインなので、専門的な用語が多いので、なんとなくこんな感じで治療が決まっていると理解していただければ大丈夫です。

フローチャート1
卵巣癌・卵管癌・腹膜癌の治療

『がん治療における保険診療と自由診療について』

このように、患者さんの状態により、治療法はチャート式でガイドラインにより決まっております。このガイドラインは臨床試験により、競い合って決まったものであり、現在最強治療といって相違ないです。もちろん、ガイドラインは更新され、その都度、臨床試験の結果により、標準治療は更新されます。このように「エビデンス」があるのが標準治療(最高の治療)です。

なぜ人は自由診療を選んでしまうのか?

でも、この現在最強治療をもってしても治らないがんもあります。僕もステージ4の肺がんで、2013年当時の5年生存率は5%以下でした。当時の最強治療(標準治療)をもってしても治らない可能性が極めて高く、主治医より「清水さんのがんは全身に散らばっている可能性が高く、根治が目的ではなく、延命治療になります」と言われるわけですよ。標準治療では治らないという絶望に襲われるわけです。そんなときに、自由診療をやっている病院のホームページを見ると、NK細胞免疫療法(自由診療)をやった患者さんを例に出して「肺がんステージ4:がんが消えた」「末期肺がんが治る」とそれとなく画像付きで紹介しているんですよ(本当かどうかわかりません)。

いまの僕は10年以上、がん患者をやっているので、保険診療の標準治療が最強だということを論理的に知っています。言ってしまえば患者レベル40ぐらいだと思います。でも、がんになったばかりの人は、標準治療が最強だということを知らない人もいるんです。だって、がん患者さんって、がんになることを想定してそれまで生きているわけではないので、患者レベルは1からのスタートなんですよ。ドラゴンクエストで言えば、スライムを倒すので精一杯です。そこで、主治医から「あなたは治らない」と言われると、もー大混乱です。そんなときに、自由診療で「治る」という希望を見せられると、コロッと騙されてしまうわけです。僕の場合、身近な人から自由診療を紹介されました。その紹介した人も、僕のことを想って、なんとか僕の病気を治せないかと思って、悪気はなく善意で紹介しているので厄介なんです。これが、僕が、数百万円を自由診療に使った経緯です。僕はそのNK細胞免疫療法をやった後に肺がんが進行したので、効果がなかったんだと思います。

自由診療が疑わしい可能性が高い理由

もし、高額な自由診療を実施している医師が、自分のやっている治療法(僕の場合はNK細胞免疫療法)に自信があるなら、臨床試験で標準治療との対決に勝利して、保険診療にすることが、1番経済的メリットがあると思うのですが、それをしないのは、標準治療に勝てない可能性が高いと思っているからだと思います。
ちなみに、僕は2015年に臨床試験を経て、肺がんに保険承認された免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」という薬で命を救われたのですが、オプジーボの薬のメカニズムを発見した本庶佑先生は、2018年のノーベル医学・生理学賞を受賞しており、巨額の特許料をもらっています。臨床試験で安全性、有効性を確認して、標準治療に採用されるのが1番儲かります。ちなみに、本庶佑先生は特許料で基礎医学研究のための数百億円の基金をつくりました。開発で得たお金を自分の懐に入れないところがかっこいいです。

標準治療って名前が悪い??

一般の人は標準治療って聞いてどう思うんですかね?例えば、新車を買う場合、標準仕様ではなく、さらにお金を使ってオプションを付けたほうがなんとなくかっこいいじゃないですか。標準=普通みたいなイメージなんですかね。お金を持っている人は普通じゃ嫌な人も多いと思います。もしくは、お金を出せば、より良い治療を受けられると思っている。そんな人は、がん治療においては、自由診療の罠に引っかかりやすい傾向があると思います。でも、がん治療においては、標準治療が最高のがん治療だということを覚えておいてください。ちなみに、僕はお金がなくて自由診療を続けられず、保険適用の標準治療に戻って、こうして元気に生きております。

『がん治療における保険診療と自由診療について』

「おはよう、おやすみ、また明日。」第3話より

参考資料:公益社団法人 日本放射線腫瘍学会ホームページ
卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2020年版:(金原出版)

漫画「おはよう、おやすみ、また明日。」はこちらから。次回は12月18日更新です。

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