『おはよう、おやすみ、また明日。がんのお金相談室』清水公一 「がん」でかかるお金のリアルがわかる!
#7 がんになって会社を休むとき知っておきたいこと 〜part2〜
肺がんサバイバーの社会保険労務士・清水公一さんによる、「がん」についてのお金のコラム。
前回のコラムにおいて、がんになって会社を休むときに知っておきたいことについて書きました。今回のコラムでは、実際に休むときに利用できる具体的な制度や会社からの合理的配慮について書きたいと思います。
治療と仕事の両立ための法的責任と合理的配慮について
私傷病(労災ではない傷病)で会社を休むときに利用できる制度として法律(労働基準法)で与えなければならない制度は、実は年次有給休暇のみです。いわゆる有給です。もし、会社に利用できる制度がなければ、欠勤となります。欠勤は給与が支払われないですし、欠勤が続くと解雇事由に該当し、会社をクビになります。ただ、実際のところ、就業規則で独自に病気休暇や病気休職を定めていたり、会社からの配慮があったりして、有給を使い切ったらすぐにクビになるケースは少ないと思われます。
従業員ががんになった場合に、与えなければならない休みは労働基準法で定められている年次有給休暇と、基本的には就業規則で定められている制度です。就業規則に定められている制度は法的責任を有します。労働基準法というのが法律で定める労働条件の最低基準となり、就業規則は労働基準法を上回っていなければならず、従業員が10人以上いる会社は作成しなければならない、会社のルールブック的なものになります。ちなみに、就業規則は従業員が見たいと思った時にいつでも見られる状態でないと、周知義務という法律違反に該当します。なので、社長の引き出しの奥にあり、見たいと思ったときに見られない状態というのは就業規則の周知義務違反となります。労働基準法と就業規則については法的責任を有しますが、企業はそれとは別に「合理的配慮」を与えなければならないとされています(努力義務)。図解するとこのようになります。
がんになって会社を休む場合、法律で定められている年次有給休暇と、就業規則で定められている制度と、会社から得られる合理的配慮があります。この就業規則や合理的配慮というのが企業ごとにより、かなりの格差があることが、僕のようながん患者さんを支援をする立場の人間からすると、治療と仕事の両立を難しくしているひとつの要因となっていると感じます。前回のコラムでも書きましたが、公務員の場合はかなり恵まれた制度となっていますが、公務員規則と同じような就業規則を持つ企業はかなりレアです。治療と仕事の両立のために利用できる制度を調べた「治療と仕事の両立支援に関する情報・人材基盤の実態調査 および支援拡充のために必要な両立支援コーディネーターの育成に資する研究」(令和5年3月)のデータが下図になります。
「治療と仕事の両立支援に関する情報・人材基盤の実態調査 および支援拡充のために必要な両立支援コーディネーターの育成に資する研究」(令和5年3月)P48 をもとに自作
https://www.mhlw.go.jp/content/001114416.pdf
病気休暇制度には休職制度も含まれると解釈できます。全体で40.8%なので、きちんと就業規則で制度化している企業は意外と少ないです。その次の時間単位の有給と半日単位の有給とは、法律上1日単位でしか取得できない年次有給休暇を、1時間単位や半日単位で取得できるように制度化している企業の割合です。あとは短時間勤務、時差出勤、フレックスタイム、在宅勤務などを制度化している企業の割合です。これらの制度があるとがん患者さんが治療中でもかなり働きやすくなると思いますが、まだまだこれらを制度化している企業は少数派です。企業規模ごとに調べたデータが下図になります。
「治療と仕事の両立支援に関する情報・人材基盤の実態調査 および支援拡充のために必要な両立支援コーディネーターの育成に資する研究」(令和5年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/001114416.pdf
これらをきちんと制度化しているのは、企業規模が大きくなるほど増えていることがわかります。大企業ほど、従業員が働きやすい環境を整えている割合が多いといえます。ただ、中小企業が制度化していないから、まったく休暇や休職などを利用できないかというと、そういうわけでもないんです。先程ちょっとお話しした「合理的配慮」というものがありまして、会社からの配慮を得ながら、治療と仕事を両立している人もたくさんいます。逆に、中小企業の場合、社長の一声で合理的配慮が決まったりするので、そういう意味でよりフレキシブルに合理的配慮を使っている会社もあったりします。では「合理的配慮」とは具体的にどういうものなのでしょうか。
合理的配慮について
合理的配慮については「障害者の雇用の促進等に関する法律」で規定されており、対象は『身体障害、知的障害、精神障害その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者』とされており、障害者手帳の有無を問わないとされております。がんの治療を受けながら、様々な症状に悩み、就労を含めた社会生活に障害が生じているがん患者さんにも、当然あてはまる考え方です。厚生労働省のがんを含む内部障害がある人の合理的配慮指針で例示されているのが、下記の3つです。
・出退勤時刻・休憩に関し、通院・体調に配慮すること
・本人の負担の程度に応じ、業務量を調整すること
・本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること
もちろんこの3つは例示なので、合理的配慮とは、個々の当事者の障害の状態や職場の状況に応じて、会社と労働者の相互理解のなかで提供されるもので、絶対的な基準はありません。ただし、事業者の過重な負担にならない範囲で求めることができるとされております。逆に言えば、過重な負担になる場合は、与えなくてもいいということになります。
実際に僕が相談を受けたケースが、いままで現場に行く消防士だった方ががんになり、抗がん剤治療が必要になったため、夜勤や肉体的負担のある現場での仕事は難しいと感じ、内勤の事務職へ配置転換を希望し、実際に配置転換してもらった方がいました。配慮をうけることができなかった例としては、6人の会社で外回りの営業の方が、内勤に配置転換を希望しても、認められなかったことがありました。
合理的配慮をしてもらうためには
過去にがん治療をしながら、仕事との両立を頑張っていた社員がいた会社は、その経験をもとにした働き方ができるかもしれません。そのような場合は合理的配慮をしてもらいやすいと思いますが、そうでない場合は、基本的に患者さんのほうから会社に対して自分にどういう配慮が必要なのかをしっかりと話し合うことが必要になります。しかし、患者さんが自分から配慮を申し出るというのもなかなか難しいですよね。そういった場合は、親身になって助けてくれそうなところに相談をするのが一番手っ取り早いと僕は思います。たとえば、前のコラムで書いた、通院している病院のがん相談支援センターだったり、会社の産業医や社内制度を理解している優しい上司や人事担当者、あとは労働関係に詳しい友人だったり。これって、親身になってくれるというのがけっこう重要だったりします。会社の上司や人事担当者が親身になってくれないのであれば、ストレスだけが溜まって逆効果になってしまいます。
合理的配慮を求めることがわがままだと思って、言い出しにくい人って多いかもしれません。僕もどちらかといえば、そういうタイプの人間でした。ただ、僕の上司がけっこう優しい人で「なにかあればいつでも言って」ということを言葉にしてくれて、相談しやすい雰囲気を出してくれていたので、配慮を求めることができました。あとは、同僚に対して、感謝の気持ちを持つことは大事だと思います。誰だって病気になる可能性はあるのだから、お互い様というところはありますが、現実問題として、同僚がひとり休みがちになったら、やっぱり仕事が増えて大変だと思うんですよね。僕は抗がん剤で休みがちになっていたときは、通院帰りにデパ地下に寄って、職場の人が好きそうなお菓子をよく買っていきました。こういったことも、いまから思えば、合理的配慮を求めやすい雰囲気を自分で作ろうとしていたんだなぁ〜っと思います(笑)。
具体的には主治医意見書等をもらって、会社と交渉することになると思いますが、その意見書の書き方ついてはまた機会があれば書きたいと思います。
参考資料
「治療と仕事の両立支援に関する情報・人材基盤の実態調査 および支援拡充のために必要な両立支援コーディネーターの育成に資する研究」(令和5年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/001114416.pdf
漫画「おはよう、おやすみ、また明日。」はこちらから。
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