『月曜日のお寺ごはん』青江覚峰 浅草・緑泉寺のお坊さんによる人生相談
#26 嫌な過去との向き合い方。
今週の相談:嫌な思いをさせてきた人の事をたまに思い出して暗い嫌な気持ちになります。忘れられれば良いのでしょうか、時折、急に思い出しては落ち込んでしまいます。
自分が受けた仕打ちを忘れられないのは誰にでもあることです。私自身も、子どもの頃にあった嫌なことが未だに思い起こされることがあります。
現実に今起きていることではないのに、思い出して憂鬱になり、沈んだ気持ちで消費してしまうのは今このとき。不毛ですね。落ち込んでしまうのもうなずけます。こんなとき、どのように気持ちを処理すればいいのでしょうか。
どんな人でも、どんな経験をしてきた人でも、その人の人生は過去から今まで一本の道でつながっています。誰だって、楽しいことばかりを経験して生きているわけではありません。嫌なこと、辛いこと、納得のいかないこと…そういった経験も、今の自分を形作る積み重ねの一つ一つです。そのどれかを選んで抹消してしまうのは不可能です。
嫌なことは嫌、嫌いなものは嫌い。人間ですから、そのような感情を持ってしまうことは仕方ありません。それを、あんなにつらい思いをした、あれさえなければと、自ら強い思いで縛ってしまえば、その鎖に囚われ、そこかから抜け出すことを困難にしてしまいます。起きたことは起きたこと、過ぎたことは過ぎたこと。他の経験、例えば楽しかったことや嬉しかったことと同じ、一つの事実に過ぎないのです。そこに過剰な重みを与えて、今を生きる自分の足かせにしてしまうのは、自分自身の心です。嫌な体験そのものでも、ましてや、それをしてきた相手でもありません。
「つらい体験があるから今がある」とか、「全ての経験に感謝しましょう」とか、そんなことを言うつもりはありません。簡単にそう思えるくらいなら苦労しませんよね。ただ、本当に、どんな重大なものであっても些細なものであっても、過ぎたことは過ぎたことでしかないことを心に留めてほしいと思います。通り過ぎた風景と同じ。単なる思い出の一つです。
そして、人間は忘れる生き物です。
今質問者さんを悩ませている「嫌なこと、嫌な人」の他にも、過去にはつらい出来事がいくつもあったはずです。けれど、成長のたび、他の様々な経験を積むたびに、完全に忘れてしまったか、印象が薄くなったかして「大したことのない思い出」に分類されているのでしょう。
自分の心の動きを決めるのは自分自身。もしそれがうまくいかなくても、時間が解決してくれる。それくらいの心持ちで過去とつきあってみるのがちょうどいいのではないでしょうか。
次回は5月27日更新です。
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