嫉妬する前に、その人の立場を体験したい

−横澤さんは、一昨年ご結婚されましたよね! 暮らしは変わりましたか?

横澤:そうですね。結婚生活はすごく楽しいです。でも穏やかである一方で、焦る気持ちもあります。わたし、前は習い事をしたり婚活に力をいれたりと、かなりエネルギッシュだったんです。それが年齢と共に、保守的になっているように感じる。

最近は気づけば夫との生活にばかり気が向いていて、ふと「自分の時間って、どうやって使っていたかな?」と思う時もあります。もっとアクティブに動いて新しいことを経験しなくちゃという欲求は常にありますね。

−結婚をすると途端に落ち着いてしまう、という話はよく聞きますね。それでも「まだ新しいことをしたい!」と思える好奇心を持っているのは、それだけで素晴らしいことな気がします。

横澤:地元の友達とちょこちょこ同窓会を開いているんですよ。そこで近況報告を聞くから、わたしも何かニュースを持っていかなきゃ! って思うんですよね。周りにキラキラしている人が多いので。といっても「派手な暮らし」という意味ではありません。でもわたしには、すごく輝いて見えるんです。結婚して、子供が二人いてっていう感じが…。

−横澤さんのように東京で暮らして、テレビに出るお仕事をしていれば、地元に住む友人の生活は一見穏やかな“普通”の生活に見えてしまいそうな気もするのですが……。

横澤:そう思う人、多いですよね? でも実際は、すっごくキラキラしているんです。たとえばわたしは「雛人形を出した」と聞くだけで「うわぁ、いいなあ!」って感激しちゃって。「旦那のお父さんお母さんに買ってもらったんだな。ということは関係が良好なんだな。5段もあるけどどこで買ったのかな。いくらしたのかな?」って、妄想がぶわっと膨らんで「その状況のすべてが羨ましい!」って思える。それでわたしも、同じことを言ってみたい!って強く思うんです。

「雛人形を『遅く出しちゃってごめんね〜』って謝りながら出してみたい!」って理想のシチュエーションとセリフを考えてみたり。自分に置き換えると面白そうだなぁ、楽しそう、やってみたい、言ってみたいって思うんです。

−すごい! ひとつのエピソードでそれだけの妄想が広がって、それで「羨ましい」と思えるなんて。人によっては何気ない日常の話に聞こえることも、横澤さんには「素敵な話」に思えるんですね。

横澤:もともと人のことが気になるんですよね。その立場になって、試してみたい。
人に嫉妬して黒い気持ちを持つくらいだったら、一回やってみて、どういう感じなのか気分を味わってみたいんです。

言い方は悪いですけど、たとえちょっと落ちぶれている人を前にしても、ノンフィクションのテレビ番組や映画のようだと思うと「いずれこの人はキラキラするんだろうな。これは前振りなんだろうな」と思えてくる。そうすると、その境遇さえも羨ましく思えてくるんです。

−みんな主人公に見えるんですね?

横澤:そうなんです。でも簡単には人の立場になれないですよね。だからそれを「ネタ」にして、言ってみたい言葉を「セリフ」にしちゃうんです。そうすれば、どんな人にでもなってみることができるので……!

−人間が好きという人には多く会ってきましたが、ここまで素直で純粋な気持ちで憧れている人には初めてお会いしました。あのリアルすぎるネタは、そんな風にして生まれているんですね。

−では、ネタの根本は「憧れ」なんでしょうか?

横澤:7割は憧れです。あとの2割は自分の口癖。残りの1割が本当に嫌いな人(笑)。憧れだけじゃなくて「この前、こういう人に会ったんだよ」ということをみんなに伝えたくてネタにしていることもあるかもしれません。

以前スタッフさんが「横澤さんくるの遅いですよ、もう5時間待ちましたよ、うそうそうそ」って、言っていて(笑)。その一言って楽しませてくれて、気を使わせなくていいなって思えたんですよね。それで、わたしも言ってみたい!と思って「すぐ嘘つく女」というネタをやってみたんですよね。結局わたしが言うと、「ウザい」んですけどね(笑)。

−いいですね。人と出会えば出会うほどネタが生まれていきそうで、楽しそうです。

横澤:そうですね。もちろん、新しい世界を体験するのは「ネタ探し」のためだけじゃないんですけど、でも新しい世界を体験できれば自然と新しいネタもできる。それに、「新しい世界に出会ったとき、自分がどう感じているか?」「どう見えているか?」という点から、新しい自分を知ることができる。この感覚がすごく好きなんです。

−新しい世界を知って、新しい自分を知ることが、いいネタ作りにもつながって結果的に仕事もうまくいく……。横澤さんにとっては、すべてが繋がっているんですね。

理想のレベルを下げることで生きやすくなった

−横澤さんは、くよくよと悩むことはありますか? なんだかエネルギッシュなので、前向きなのかな、と。

横澤:いえ、そんなことないです。いつも「わたしなんて……」って思っちゃうんです。それになにをやっていても「うまくいかない」と落ち込んでしまうことも。

でも以前トレンディエンジェルのたかしさんに、「なっちゃん、自分が思うほど完璧人間じゃないよ」って言われたことがあるんです。「求めるレベルが、高すぎるんじゃない?」って。「そこそこウケていたライブでも、『スベった』と落ち込んでいる。そんなに落ち込んでいるっていうことは、普段大爆笑をかっさらってるの? ちがうよね?」って(笑)。

その言葉にすごく納得したんです。「わたしなんて」って落ち込んでいるのは、逆に「普段のわたしは完璧な人間だ」と言っているようなものだったんだなって。それに、自信がないことを理由に「どうだった?」と周りに聞いていたのも、「そんなことないよ」って言われるのを待っていただけだったのかもって。

−なるほど。くよくよしてしてしまうのは、理想が高すぎるからだ、と気づかせてくれたんですね。

横澤:そうです。そのアドバイスがあってからは、できるだけ「わたしなんて」じゃなくて「わたしにしては」って思うようにしています。「わたしにしては、ウケたよね」「わたしにしては、頑張ったよね」って。そう思えるようになったらすごく楽になったんですよね。

−大事な考え方ですね。マンガの主人公の凪は、空気を読みすぎてしまう性格でしたが……。横澤さんも空気を読んでしまうこともありますか?

横澤:あります! わたしはとにかく「この場を崩したくない」と思ってしまうので、時に「どう振る舞うと、この場が一番盛り上がるか」と立ち回りを考えてしまうことがあるんです。だから凪の気持ちもよくわかりますね。

あとは空気を読みすぎちゃって、「わたしはこう思われてそうだから、こういうこと言えばウケるかな」と思ってしまうことも。でも、それがうまくいかず、めちゃくちゃ嫌な感じになっちゃったりして空回りするんですよね。

−自分の立ち回りを考えてしまう……。テレビに出ている方だとそういう悩みも多そうですね。

横澤:言いたいことと言わなきゃいけないことが異なるときは、たまにありますね。時には、「こっちの方向でしゃべってください」と台本が用意されていて、Aを言いたいけどBを求められている気がする……、という葛藤が起こってしまい、言いたいことがうまく言えない番組もあります。

−そうやって落ち込んでしまったときは、どんな風に立ち直るんですか?

横澤:ドラマ風に、ナレーションをいれるんです(笑)。

−ナレーション……?

横澤:はい。脳内で、「夏子は、くよくよと落ち込んだのであった。このあといいことが待っているとも知らずに」って言うんです(笑)。たったそれだけですが、すごく楽になれるんですよ。

あとは、「今日は朝ドラでいう木曜日だ」と思うようにもしています。朝ドラって、木曜日にすごい悲しい出来事を起こすんですね。でも土曜日には、それを回復させてくれる前向きな展開があるんです。だから、今日は木曜日って何度でも言い聞かせていますね。

−面白い! どちらも、少し離れて客観的に自分を見るテクニックですね。ユニークな方法ですがかなり効果がありそう。

横澤:あとは、同じような体験をしている先輩に相談します。ハリセンボンの春菜さんや渡辺直美さんに相談することが多いですが、お二人とも既に経験されて解決法を持っているんですよね。

恋愛のことで悩んだら恋愛の猛者に相談したり、婚活で悩んだら婚活マスターに相談したり。その道を経験している人にきくと、アドバイスもスッと入ってくるし、なんだかそれ以上言い訳できないなと思うんです。

−素直にアドバイスを聞ける相手がいるというのは大事なことですね。

横澤:はい。そういう尊敬できる先輩や大切な友達に囲まれているので、恵まれていますね。この年になってから、「一緒にいる人」を選べるようになってきたのも、生きやすくなってきた理由だと思っています。

友達って義務で付き合っていくものじゃないですよね。会いたい時に会えて、一緒にいて楽しい人だけを大切にしてもいい。嫌な思いをする友人との付き合いをきちんと断れるようになってからは、かなり楽になりましたね。

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