私にはいつでも「逃げる場所」があった

−ゆいPさんは、どんな子供だったんでしょうか?

ゆいP:中学も高校もムードメーカー的な存在で、劇の主役をしたり応援団長をしたりしていました。すごく明るかったと思います。転校を三回くらいしましたが、その都度「ナメられたくない」と思っていました。最初は大人しくして、後々しゃしゃり出ていましたね。

−当時から明るかったんですね。学生時代といえば多感で、人間関係で悩むイメージもありますが……。

ゆいP:小学6年生のとき、初めて仲間はずれにされました。“お山の大将”みたいになっていたのかもしれません。そのとき初めて、「人は、自分だけじゃない」なんて当たり前なことを学びました。
高校生のときは、周りの女の子とどうしてもノリが合わなくて、つらい思いをしたこともあります。でもその後、部活に入って部員同士の繋がりが強くなって……。今思えば、私にはいつでも「逃げる場所」があったような気がします。

−ゆいPさんは、いつから「芸人になろう!」と思っていたのでしょうか。

ゆいP:大学4年生で就活を始めたときは、漠然とどこかに就職すると思っていたんです。ビッグネームに飛びついてやろうという気持ちで、大手ばかり受けて。でも、その会社に入りたくて努力している人が多いんだから、私のような人は落とされて当然なんです。
でも、当時は憤慨してたんですよ(笑)。「なんでわたしを採らないんだ!」なんて言って。本当に生意気な話ですが、『どうしてもやりたい』と思っているわけでもないのに、落とされた」という事実がどうしても悔しくて。
それから、「私って本当は何をしたいんだろう?」と、ようやく考え始めました。それで「人を笑わせることが好きだ」と気づいて、芸人を志しました。

誰も傷つけない笑いに憧れてきた

−それまで一度も「芸人になろう」と思ったことがなかったのに、その選択はすごい……! それからすぐにNSC(吉本興業の養成所)を受験されたんですか?

ゆいP:はい。集団面接を受けました。今でも覚えていますよ。「これから仕事でブスって言われることがあるかもしれませんが、大丈夫ですか?」って聞かれたんです。

−えっ、そんなことを聞かれたんですか……。

ゆいP:「はい、大丈夫です!」って元気よく答えましたよ。
最近ネットでは「たとえ芸人相手であっても“ブス”と言うのはよくない」って、ブスいじりについてのコメントも多いですが、 私個人はプロとしてやっているので大丈夫です。いじりが上手い人にいじられたら、オイシイ・嬉しいと思える。私にとって、「ブス」という言葉は武器になり得るし、どちらかといえば前向きな言葉です。
でも、これは当然「芸」。プロでもない人に言われたり、プロでもない人に言ったりするのは違うと思います。そのあたりの線引きができていない人はいるかもしれませんね 。

−なるほど、芸人さんの立場からそのようなお話を聞けるのは面白いです。これは難しい質問になるかもしれませんが……、「笑わせる」と「笑われる」の感覚って違うと思うんです。芸人さんは「笑わせる仕事」。でも不本意に「笑われている」と感じることもあるんでしょうか?

ゆいP:普段はないですよ。テレビや仕事中には、「笑ってくれた」という感じです。 でも、プライベートだと話は別ですね。
一昨年、彼氏がいたときに動物園デートをしていたら、知らないお父さんと子供がやってきて「ゆいP怒ってよ!」って言って笑うんですね。本当にやめてほしくて……。街中でもバカにしてくるように笑われることもありますし。
正直、「トップ女優に同じこといえんの?」「トップ歌手に歌ってって言えんの?」って思うときもある。私だから言うんじゃないの?って。そういうときは、いくら笑っていても嫌だなと思ってしまいますね。

−そうですよね。「ブス」という言葉にしても「笑い」に関しても、「そこに敬意があるのか」がポイントになるのかもしれないですね。女芸人として頑張っていく上でモチベーションにしていることってありますか?

ゆいP:そうですね……。面白かった! と言ってもらえることが一番です。下積み時代に出演した番組が終わった後にエゴサをしたら、「毎日仕事つらいけど、ゆいPを見てめっちゃ笑って、明日も頑張ろうって思えた」って書いてあって。「あぁ、こういう気持ちになってくれる人がいるんだ!」って思って、本当に嬉しかったんです。
そこからいろいろな番組に出るようになりましたけど、営業に行くと老夫婦に「面白かったよ」と言われたり、子供から感想をもらったり。テレビの向こう側で、こんな人が見てくれているんだって、本当にありがたいです。
本当は、バナナマンさんや藤井隆さんのように誰も傷つけない笑いに憧れてきたんですけど……、やっている芸とはちょっと違います。それでも自分の芸で笑ってくれる人がいる。それはすごく嬉しいですね。

−素敵なお話。「面白かった」と言ってくれた遠くの人を想像をしながら、人々を笑わせているんですね。

ゆいP:そうです! って言えたら格好いいんですけどね(笑)。普段は必死で、正直そんな余裕はないです。目の前のことだけを頑張っている感じですよ。

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