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トピックス 2019.06.14

【特集】

菊池真理子×成瀬暢也 対談 「『家族が依存症』のしんどさ、どうすれば?」(3)

アルコール依存症だったと思われる父を持つ菊池真理子さん。依存症当事者の“家族”側の「生きづらさ」について、薬物依存を中心とした依存症治療に取り組んでいる精神科医の成瀬暢也先生に聞きました。

依存症患者の家族も癒されなければいけない

菊池 依存症って、当人は自覚しにくいじゃないですか。だからまずは家族が気づくしかない。だけどその家族の方も、どこからが常軌を逸した行動なのかがわからなくて、気づくのが遅れたりしますよね。だからこそ先生の仰るように、支援機関にたどり着くまで時間がかかるんだと思うんです。一体どうすれば、家族に問題があることに気づけるんでしょう?

成瀬 それは、自分のところ以外の、他の家族を見る機会がないと分からないと思う。

菊池 ああ……! 本当にそうですね。

成瀬 自分のうちしか知らなかったら「どこもこんなもんなんだ」としか思えないもの。その状態で、家族の異常に気づくのは難しい。自分の家族がおかしいなんて、特に子どものうちは思いたくないしね。

菊池 思いたくないです。私が「うちのお父さんはおかしかったんだ」と思えるようになったのも、本当にいい大人になってからでした。

成瀬 親御さんから離れて、独立した一人の大人になったからこそそう思えるようになったんだよね。近過ぎると、客観的には見られないわけですよ。僕は常々思っているんだけど、日本の依存症治療や支援の業界は、家族になんとかさせようとしすぎ。そういうところがすごく遅れている。まず家族も癒されないといけないんだから。依存症患者の家族を主役とした、彼らのための支援というのがないといけないんです。

菊池 依存症の人とは完全に別で、ということですか。

成瀬 そうです。だって家庭内暴力やなんかで、家族のほうがよっぽど傷ついてる場合も多いわけだからね。その状態で、さらに家族に治療のサポートをさせようなんて酷いよ。依存症支援の業界はこれまで、当人に酒や薬をやめさせることに注力するあまり、家族のダメージを軽視してきたと思う。

菊池 症状が悪化していく当人をなんとかしようと頑張って、傷ついている家族がたくさんいますもんね。

成瀬 みなさん本当に頑張っていらっしゃる。一生懸命ですよ。

菊池 だけど、私もそうだけど、「私がああしていれば」とか「こんなことになったのは自分のせいじゃないか」とか、自責の念にかられてしまうんですよね。頑張ってきたはずなのに。

成瀬 そこまで家族が熱心に何とかしようとしたからこそ、そこまで生き延びられたかもしれないんですよ。本当に。依存を助長させちゃいけないって家族は思うだろうけど、でも依存症の人にとっては、酒や薬が生きるための最後の拠り所だったりしますから。

家族はどう回復すればいいのか

菊池 依存症患者の家族は、具体的に、どう回復していったらいいんでしょうか?

成瀬 患者本人の回復の方法と、プロセスとしては同じです。患者の家族も、結局孤立して疲弊して、自信もなくしてるし、どうしていいか分かんなくなっちゃってる。だから同じ立場の人、つまり依存症患者を持つ他の家族と、自助グループや家族会なんかを通じてつながることが一番大事。

菊池 やっぱり、そこでも大事なのは「安心できる場と信頼できる仲間」なんですね。

成瀬 そうです。特別な治療が必要なわけじゃない。苦しいとき、人とちゃんとつながることができれば、それが人から癒やされる機会になって、回復していくんです。

菊池 その場では、私だったら父親の悪口を言ってもいいわけですよね。

成瀬 そうそう。みんなガンガン吐き出していいんです。

菊池 父は病気だったんだから、そんなに悪く言っちゃいけないっていう思いがすごく今は強くなってきてしまっているんだけど。

成瀬 だけど、やってらんないよ、という気持ちだってあるでしょ? 同じような気持ちを抱えている人たち同士でだったら、それを安全に話せるじゃない。他のいろんな人たちがいる場所で「うちの父親はとんでもない奴なんです!」と言いまくったら、「あの人、親のことをあんな風に言ってひどい」って言われちゃうかもしれないけど。当事者同士の集まりでだったら、わかりあえるし、バッシングされることもないし、家族を傷つけてしまうこともない。

菊池 そっか……!

成瀬 安全な場所で気持ちを吐き出すことが何より大事。そうすると気持ちがつながる。依存症の当人も同じです。「覚せい剤、やめられないんです」みたいなことを安心して打ち明けられる場ってないでしょ。家族には言えないし。だからうちの外来では、それを怒るようなことはないんだ、ってことをよくわかってもらう。正直な話をしていい場所なんだって思ってもらうことがスタートです。その上で「でもそれだと捕まっちゃうかもしれないね、どうしようね」って話をする。依存症当事者もその家族も、それぞれが安心できる安全な場を持つことが、それぞれの回復の道なんですよ。

「家族の絆は美しい」という物語では救われない

── 他の家族を見ること、他の家族とつながること。どちらも、核家族や単身世帯が増え続けている現代社会においては難しいですよね。都市圏は特に近所づきあいみたいなものもどんどん希薄になっていっているし、家族だけで孤立してしまいやすい時代だと思います。ここは今後、どのようになっていくべきなんでしょう。

成瀬 家族という単位の持つ機能自体が落ちてきているんだよね。昔は家族というと、親類一同も含めた大勢のことだった。だから一人ちょっと困ったことになっても誰かがカバーしたり、子どもを守ったりする余力があったと思う。でも今は核家族が中心だから、お父さんがたとえばアルコール依存症になったら、もうその奥さんと子どもは逃げ場がない。誰もカバーしようがない。小さなカプセルの中でさまざまな問題が起こる。でも外には見えにくい。それはもう虐待と同じことだから、外部からどうにかするしかありません。家族に対する強力な支援が、もっともっと増えないといけないと思います。

菊池 家族が起こした問題は、他の家族で全てなんとかしろ、という風潮がすごく強いですよね、日本は。そういうところが変わっていかなきゃいけない。

成瀬 誰かが何か事件を起こすと、家族は何してたんだ、と一緒に叩かれるもんね。そして家族側も、世間体もあるから一生懸命当人の尻拭いをする。その果てに家族も病気になっちゃったりする。助け合いは美しいけど、全部家族内で責任をとれなんてのは、これはまったくよくないね。「家族の絆は美しい」みたいなことを言ってる場合じゃないよ、と思う。

菊池 そういうの、本当嫌い(笑)。

成瀬 でも日本人はそういうイメージが大好きなんだよね。「家族の絆」(笑)。24時間テレビみたいに、すぐ感動物語に仕立てようとするじゃない。家族なんて、どんだけ醜いところがいっぱいあるかね。そういう現実を見ないでそういう美しいイメージだけを作り上げて、それで依存症患者をバッシングしたりするんだからおかしな話です。

菊池 そういえば、私が親の話をすると、「いつまで親のことを愚痴ってるんだ、家族のことを悪く言うべきじゃない」と批判のコメントも時々くるんです。だけど、恋人からのDVの話なんかは大歓迎みたいで、「もっと話してほしい」という反応が多い。他人に攻撃されたというのは「かわいそうな話」なんだけど、親の言動で苦しんだというのは、これは「いちいち人に言うようなことじゃない」扱いなんですね。これは面白いなと思います。

成瀬 それも、「家族の問題は家族で解決しろ」という考え方の延長なんだろうな。

菊池 なんで家の中って本当にこんなに美化されるんだろう。美化というか、「何があっても大事な家族だよね」っていう物語に無理矢理にでも落とし込む感じ。日本人、家族大好きですよね。

── 本当に好きなんですかね。

成瀬 ものすごく人の目を気にする、世間体を重んじる文化なのは間違いないよね。

菊池 私タイによく行くんですけど、タイには日本的な世間体意識って無いみたいで、そういうところはとても楽です。何かをもらったらその場でお礼を言っておしまい。子どもが外にいるときは、近所の人たちが自然と見守ってる。「なんで親がちゃんと見ていないんだ!」って怒る人なんていなくて、むしろ「見ててあげるから行ってきなさいよ」って感じ。

成瀬 日本も昔はそういうところがあったんだけどね。今はどんどんなくなってきているよね。家族の人数が少ないぶん、子どもは親二人の仲が悪かったらもうダイレクトにダメージを受けるし、逃げる場所もないし。

菊池 でも、そういう過程に外部の人が関わるのも、実際のところ難しいですよね。どこまで踏み込めるのかといったら。扉をこじ開けて、家の中に無理矢理入るわけにはいかないし。

成瀬 自治会だって民生委員だって、そんなことはできないよね。学校の先生たちだってへとへとだし。なんかあったら児相が入るけど、その児相だって全然人が足りていない。パンクしてる。難しいです。

菊池 これはもう、社会の根本的な課題ですね。

文責:小池みき

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