『月曜日のお寺ごはん』青江覚峰 浅草・緑泉寺のお坊さんによる人生相談
#60 いい人と思われたい気持ちが抜けません。
今週の相談:いい人と思われることが気持ちよくて、そのための行動をしていたら、どんどん自分に嘘をつく結果になりました。「一体何をやってるんだろうな」と思います。付け焼き刃な自分がすごく浅はかに感じます。
仏教には身口意(しんくい)の三業(さんごう)という言葉があります。
これは、人間の行為を身・口・意志の三種に分類したものです。ここに「業」という言葉がついている。
業とは行った行為がずっと自分に溜まっていくさまを表します。ずっと溜まっていって他の結果につながっていくのです。
例えば悪口を言うという行為。悪口自体は音なのですぐに消えてしまいます。
しかし悪口を言ったという事実は残ります。
それが溜まっていく。例えば周りの人に「あいつは人の陰口を言うやつだ」と思われるかもしれません。
そのせいで、遊びに誘ってくれる人が減るかもしれません。
こういったことが業です。行為そのものが、ずっと後にも影響を与えるのです。
さて、今回のご相談。
「いい人と思われることが気持ちよくて、そのための行動をしていたら……」とあるのはまさに業が溜まってきている状態ですね。
八方美人と言われるようなことをずっとやっている。
その結果自分に嘘をつき続けることになり、自分が嫌になってしまう。
そのモヤモヤをすっきりさせたいのなら、話は簡単です。八方美人をやめればいいのです。
業は自分がやったことが溜まっていくだけなので、その業を断ち切るには行為そのものを止めるに限ります。
しかし、本当にそれだけが解決策でしょうか。
業というと、一般的には悪業といってネガティブな意味で捉えられることが多いですが、実際は業に善も悪もありません。
自分がやったことが溜まっていくという単純なことです。
八方美人でいることで、たしかに自分の中にはモヤモヤが積み重なっているのだと思います。けれど、では八方美人の顔を向けた相手にとってはどうでしょうか。
あの人に頼んで助かった、あの人と話すと気分がいい、あの人に会って元気が出た、そんな心地よさが残っているはずです。
もちろん、何事もバランスというものが大切ですから、よいことをしているのだから自分に嘘をつき続けるのは仕方ないとも、自分に嘘をつくのはつらいだろうから、金輪際八方美人はやめなさい、とも言えません。
相談者の方は、基本的に人にNOを言うのが苦手なのでしょう。
自分のおかげで喜んでいる人がいるということも忘れないでいいと思うのです。
それで、どうしようもなくなったら、そっと口を閉じる、手を止める、というように逃げてもいいのではないでしょうか。自分をとるか他人をとるかではなく、現場にかかわらない、という選択もあるのです。
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