『おはよう、おやすみ、また明日。がんのお金相談室』清水公一 「がん」でかかるお金のリアルがわかる!
#9 傷病手当金について 〜Part2〜
肺がんサバイバーの社会保険労務士・清水公一さんによる、「がん」についてのお金のコラム。
今回も前回に引き続き傷病手当金についてです。前回は傷病手当金をもらうための4つの要件を中心にお伝えしましたが、今回は実際に傷病手当金を申請する際の注意点だったり、知っておきたいポイント、会社を辞めて資格喪失した後の継続給付について書いていこうと思います。
2回目の傷病手当金はもらえる?
傷病手当金は、同一の疾病・負傷に関して、支給開始日から通算1年6か月を超えない期間支給されます。がんの場合、再発・転移は医学的に原発と同一傷病になります。そのため、原則的には、再発・転移をして働けない状態になり傷病手当金を受給する場合、その前に同じがんで休んだ期間も1年6か月に含めなければなりません。
原則、上図のように、初発で欠勤した期間と再発・転移で欠勤した期間は通算されて1年6か月まで支給されます。ただし、初発と再発・転移との間の出勤の期間によっては、『社会的治癒』が認められる可能性があります。
社会的治癒とは
社会的治癒という耳慣れない言葉が出てきましたが、この社会的治癒が同一傷病で2回目の傷病手当金をもらうためのキーワードになります。社会的治癒とは社会保険上の考えになりまして、医学的に治癒していなくても、「相当期間にわたって社会復帰(職場復帰等)をしていた場合は、社会通念上『治癒』したものとみなし、最初の病気と再発は同一ではないものとする」と解釈するものです。この社会的治癒が認められた場合、「支給開始日から通算1年6か月」がリセットされ、社会的治癒が認められた時点より、再度通算1年6か月間、傷病手当金を受給できることになります。
ここで問題になるのが、この『相当期間』がどの程度の期間なのかということですが、これが法律などできっちりと決まったものではないんですよ。実際に社会的治癒を認めるかどうかを判断するのは保険者です。つまり、協会けんぽや健康保険組合がそれぞれに判断することになります。傷病手当金の場合、フルタイム勤務で職場復帰をしていれば、抗癌剤治療などを継続していても社会復帰の期間とみなされることが多いと思います。
では、どの程度の期間があれば社会的治癒が認められるか? ここが一番大事だと思うのですが、実務においては1年以上フルタイムで勤務をしていれば社会的治癒が認められる可能性が出てきて、2年以上あれば認められる可能性がそれなりにあり、3年以上の場合は可能性が高いといったところでしょうか。あくまで判断するのは保険者になるので、僕が断言できないのが心苦しいですが、1年以上フルタイムで勤務していれば、とりあえず申請してみるのがいいと思います。申請してみないと社会的治癒が認められるどうかはわからず、保険者に事前に問い合わせをしても、「とりあえず、申請してみてください、申請書を見て判断します」という趣旨の言葉を言われるだけだと思うので、結果が出るまではドキドキです。
ちなみに、余談ですが、障害年金にも社会的治癒というものがあり、再発時を初診日とすることを認められる場合があるのですが、障害年金の社会的治癒は、傷病手当金に比べるとかなり認められるのが厳しいです。治療をしている期間は社会復帰にならない場合がほとんどで、その期間も5年以上は必要になると思います。障害年金についてはまたの機会に詳しく書きますね。
退職後に傷病手当金をもらうためには
支給開始日から通算1年6か月以内であれば、退職しても傷病手当金をもらい続けることができる可能性があります。それを資格喪失後の継続給付といいます。資格喪失というのは、退職したために、加入していた健康保険の被保険者ではなくったことを指します。
資格喪失後の継続給付を受けるためには下記の4つの要件を満たす必要があります。
①退職日までに、1年以上継続して被保険者であること。
②退職日に傷病手当金を受給しているか、受給できる状態であること。
③退職後も引き続き同じ病気療養のため(医師の診断により)労務不能の状態であること。
④退職日に仕事を休んでいること。
①についてですが、残念ながら、退職日までに社会保険を1年以上継続加入していないと、資格喪失後の継続給付を受けることができません。『社会保険を1年以上』と書いたのは、保険者が変わっていても、1日も間が空いてなければ、転職をしても継続給付を受けることができますが、1日でも間が空いて、社会保険を外れてしまった期間があれば①の要件を満たさなくなります。就職や転職直後で、入社前に社会保険に加入してない期間がある場合は継続給付を受けることができません。
②と③については、そのままなのでとくに注意することはないと思いますが、気をつけなければならないのは④の退職日に仕事を休んでいることです。
これは、僕のように義理人情に厚い性格の人は特に注意が必要です(自分で言っている時点で怪しいですが・・・)。
退職日って、要はその会社に在籍する最終日です。いままでお世話になった職場だからこそ、最後の日は「お世話になりました」の挨拶に行きたくなるじゃないですか。でも、絶対に行かないでください!! 最終日に出勤すると、②の退職日に傷病手当金を受給しているか、受給できる状態に該当しなくなるんですよ。要は最終日に働いているから、その後も働けるよねってことで、その後の期間は労務不能にならないってことです。
もし、退職日に出勤してしまったら、その事実はあとから変えることはできないんですよ。タイムカードや出勤簿などが残っているので、それを改ざんすることは法律違反になります。だから、あとから傷病手当金の継続給付について気づいても、どうすることもできない現実を突きつけられます。知らなかったがないようにしたいですね〜。
それまで傷病手当金を受給していない人は、下図のように退職すれば資格喪失後の継続給付を受けることができます。
○最後に注意点を2つほど。
資格喪失後の継続給付は、一度途切れてしまう(働いてしまう)と、通算1年6か月経っていなくて、その後労務不能になって働けなくなっても、傷病手当金をもらうことはできません。なので、資格喪失後の継続給付をもらっている人が復職するときは、そのつもりで復職してください。
もう1つは、退職後(資格喪失後)は健康保険をどれにするか選ばなければなりません。選択肢としては、国民健康保険、任意継続被保険者、同居親族の扶養に入る、の3つがあると思います。傷病手当金は受給を開始したときの保険者より支給され、それは資格喪失後の継続給付でも変わりません。だからといって、それまでの保険者と同じ任意継続被保険者にならなければいけないというわけではありません。
仮に協会けんぽから傷病手当金をもらっていた人が、退職後も傷病手当金の継続給付を受ける場合、国民健康保険や同居親族の扶養家族になって保険者が変わっても、1年6か月の期間内であれば、協会けんぽから傷病手当金をもらい続けることができるということですね。
傷病手当金についてのまとめ
2回にわたって傷病手当金について書いてみましたが、いかがでしたでしょうか?
知らないでいると思わぬ損をする可能性がありますね。基本的に日本では、社会保障というのは自分から手をあげて請求しないといけません。行政や病院が教えてくれるわけではないので注意してくださいね。ちなみに、傷病手当金の時効は2年です。労務不能になって休んでから必ず2年以内に申請してください。逆に資格喪失後の継続給付を知らなかった人で、条件を満すことをあとから知った人は2年以内であれば請求できるので、そのような人がいたら教えてあげてください。
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