#14 各種社会保険制度との併給調整について | Souffle(スーフル)
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コラム 2024.12.09

『おはよう、おやすみ、また明日。がんのお金相談室』清水公一 「がん」でかかるお金のリアルがわかる!

#14 各種社会保険制度との併給調整について

『おはよう、おやすみ、また明日。がんのお金相談室』清水公一

肺がんサバイバーの社会保険労務士・清水公一さんによる、「がん」についてのお金のコラム。

前回は傷病手当金と障害年金の併給調整をメインでご説明いたしましたが、今回のコラムではそれ以外の社会保障制度の併給調整についてご説明いたします。

雇用保険の基本手当と傷病手当金について

雇用保険の基本手当はよく失業保険とか失業手当とか言われており、会社を辞めた後の休職活動中にもらうことができるものです。基本手当をもらうことの条件として、「雇用保険の被保険者であった方が離職した場合において、働く意思と能力を有し、求職活動を行っているにもかかわらず、就職できない場合に支給される」とあります。つまり、働く意思があり、働ける健康状態でないと基本手当を受給することができません。傷病手当金は労務不能の場合に受給できるので、この2つは制度上、同時にもらうことはできません。もしがんで働けなくなり会社を辞めて、すぐには働けず、傷病手当金の継続給付を受給している場合は、基本手当を受給することはできません。

基本手当を受給できる期間は、原則として離職日の翌日から1年間となっておりますが、病気で働けないときは、基本手当の受給期間延長申請ができます。申請をすると、離職日の翌日から最大4年まで延長できるので、忘れずに延長申請しましょう。

ちなみに、雇用保険の考え方で、働けるということは週20時間以上の勤務が可能ということになります。例えば、会社で肉体労働のフルタイムの勤務ができず労務不能で傷病手当金を受給しているときに失業したけれども、デスクワークで週20時間の勤務ができるとの医師の診断書があれば、最終的にはハローワークの判断となりますが、雇用保険の基本手当の受給要件は満たす可能性が高いです。

雇用保険の基本手当と障害年金について

雇用保険の基本手当と障害年金ですが、この2つに併給調整はありません。なので、同時にもらうことができます。ただし、注意が必要です。というのも、基本手当を受給していることは、日本年金機構で把握することができるからです。先ほど述べましたが、基本手当を受給しているということは、働く意思があり、働ける健康状態ということになります。

がんで障害年金を請求する場合、3級は労働していても認められますが、1,2級は働いていると認められないことが多いです。3級でも労働に制限を受ける状態でないと受給できないので、障害年金を請求するときに基本手当を受給していることがプラスになることはないです。まして、障害年金で2級以上に該当するのであれば、基本手当の受給資格証の申し込みをしないほうがいいです。

あと気をつけないといけないのが、障害年金を受給中の方です。がんで障害年金の支給が決定すると、次回診断書提出年月が決められている有期認定になります。有期認定の場合、その指定された年月に診断書の提出が必要になります。そのときに基本手当を受給していると、認定に不利になる可能性があり、等級が下がったり、支給停止になることがあります。なので、制度的には、雇用保険の基本手当と障害年金は同時に受給できますが、障害年金の認定に不利に働く可能性があるので、注意が必要になります。

資格喪失後の傷病手当金と老齢(退職)年金が受けられるとき

資格喪失後に傷病手当金の継続給付と老齢(退職)年金をうけることができる場合は、傷病手当金は支給されません。ただし、老齢(退職)年金の額の360分の1が傷病手当金の日額より低いときは、その差額が支給されます。

ただし、在職中は傷病手当金と老齢(退職)年金の調整はなく両方とも全額支給されます。

労災保険と傷病手当金

労災保険から休業補償給付を受けている(受けていた)場合、労災保険の休業補償給付と同一の病気やケガのために、労務不能となった場合には、傷病手当金は支給されません。また、業務外の理由による病気やケガのために労務不能となった場合でも、別の原因で労災保険から休業補償給付を受けている期間中は、傷病手当金は支給されません。ただし、休業補償給付の日額が傷病手当金の日額より低いときは、その差額が支給されます。

労災保険と障害年金

労災保険の障害補償給付または傷病補償給付と障害年金を同一の傷病で受けることができるときは、障害年金が全額支給され労災保険の給付が減額されます。

労災保険の減額支給率は以下のとおりです。

・障害基礎年金と障害厚生年金の両方を受ける場合→73%の支給
・障害厚生年金のみを受ける場合→83%の支給
・障害基礎年金のみを受ける場合→88%の支給

ただし、別の傷病で受けることができる場合は、労災保険の給付と障害年金は調整されることなく両方とも全額支給されます。

前回のコラムの問題の答え合わせ

前回のコラムの最後に児童扶養手当と傷病手当金と障害年金の併給に関する問題を出しましたが、その答え合わせです。

問題

Bさんの2013年〜2019年までの児童扶養手当と傷病手当金の支給済み金額は下記のとおりです。
児童扶養手当:2014年〜2019年まで支給済み:合計額190万円
傷病手当金:2013年〜2015年支給済み、2018年〜2019年済み:合計110万円

このBさんに、2019年に障害厚生年金3級が2014年に遡って支給されることになりました。障害厚生年金3級:2019年に2014年まで遡って支給:初回振込額220万円

Bさんへの児童扶養手当と傷病手当金の返還請求額は合計いくらになるでしょうか?

答え:Bさんの合計返還額は児童扶養手当190万円と傷病手当金110万円の全額(300万円)の返還が必要。

これは実際にあったケースなのですが、かなり特殊な事例だと思ってください。

まず、児童扶養手当が支給されると、障害年金と併給調整があり、遡って障害年金が支給されると、児童扶養手当の返還が必要となります。傷病手当金と障害年金も同じく併給調整があり、傷病手当金の金額が高い場合、障害年金の返還が必要になります。

障害厚生年金の支給が遡って決定され、Bさんには障害厚生年金が220万円支払われました。しかし、そのあと、児童扶養手当は障害年金が支給される期間の全額(190万円)、傷病手当金も障害年金が支給される期間の全額(110万円)の返還請求が届きました。理不尽なことに障害厚生年金を遡って220万円を受給したことにより、計300万円の返還が必要になりました。80万円のマイナスです。

もちろん、Bさんはその後、それぞれの窓口や弁護士に相談するも、それぞれの法律で返還するように決まっているので、決定を覆すことは困難とのことで、泣く泣く、分割で返済しました。

困った時に役立つはずの社会保障制度で、こんなことがあるとは思いもよらないですよね。もちろんかなりレアケースですが・・・。

『おはよう、おやすみ、また明日。』第27話より

『おはよう、おやすみ、また明日。』第27話より

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