『おはよう、おやすみ、また明日。がんのお金相談室』清水公一 「がん」でかかるお金のリアルがわかる!
#15 高額療養費制度の引き上げについて 〜Part1〜

肺がんサバイバーの社会保険労務士・清水公一さんによる、「がん」についてのお金のコラム。
今回のコラムは、最近なにかと話題の高額療養費制度についてです。
大きな病気になったことがある僕みたいな人間からすれば、高額療養費制度があるからこそ、安心して現在最強治療である標準治療を受けることができます(標準治療がなぜ最強かは「#2がん治療における保険診療と自由診療について」にて詳しく説明しております)。
この高額療養費制度があるからこそ、日本の国民皆保険は素晴らしいと自信を持って言うことができます。
しかし、昨年11月の社会保障審議会・医療保険部会において、高額療養費制度の見直しの議論が始まったと思ったら、厚生労働省が作成した案をもとに話が進み、患者の意見を聞くことなく、昨年の12月27日、高額療養費自己負担上限額引き上げを含む2025年度予算案が閣議決定され、令和7年8月から3段階(3年)にわけて自己負担上限額の引き上げが決定しました。
ここに至るまで、この高額療養費自己負担上限額引き上げについてはほとんどニュースにもならず、この引き上げにより、直接医療費負担が増えるがんなどの長期療養を必要とする患者さんの多くはこの事実を知りませんでした。
今年に入り、その引き上げ内容が明らかになるにつれ、引き上げ額の大きさや、一部の層を対象としていることに愕然としたのは言うまでもありません。
まさに「聞いてないよー」(Respect For ダチョウ倶楽部)です。
表向きは医療費負担を現役世代中心から全世代で負担をしていくという見直しだと説明しておきながら、実際には現役世代に負担増を強いるものです。
今年に入り患者団体が声をあげ、マスコミが報道し、SNSで高額療養費引き上げ反対の声があがり、石破首相は発言を二転三転させ、「引き上げに理解を求める→ 引き上げの一部凍結→ 令和7年8月からの引き上げを見送る」としました。
ここまでが現在(2025年4月1日)までの流れです。令和7年8月からの引き上げを見送るとありますが、中止するわけではなく、秋までに改めて方針を検討し、決定すると表明しており、どのような形になるかは現時点では決まっておりませんが、引き上げをすることは間違いなさそうです。
医療費の自己負担割合
医療費のおさらいをします。医療費の基本は3割負担ですが、70歳以上は所得により1割〜3割になります。

厚生労働省:医療費の一部負担(自己負担)割合について(最終アクセス日:2025年5月12日)
ここでいう現役並み所得者とは、課税所得145万円以上(単身年収で383万円以上、複数人約520万円以上)。子供については多くの自治体において中学卒業or高校卒業までは助成があり、無料または一部負担金(200円)のみとなっております。
高額療養費の自己負担上限額(現行)
入院、手術などをすると3割負担でも総医療費はかなり高額となります。例として、総医療費が100万円だった場合、3割負担でも30万円となります。
がん治療で使用する抗がん剤は薬価が高いものが多く、月の総医療費が数百万円になる薬も多いです。そのような治療が数か月続くと、3割負担でも家計が破綻するということも十分考えられます。
そこで頼りになるのが、高額療養費制度です。
医療費の自己負担額が一定額を超えた場合に、公的保険が超えた分の負担をしてくれるものです。高額療養費の毎月の自己負担上限額は年齢+収入により分けられています。
年齢は69歳以下と70歳以上、さらにそのなかでも収入により区分されています。

厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆さまへ(最終アクセス日:2025年5月12日)
さらに、過去12か月以内に3回以上、自己負担額の上限額に達した場合は、4回目から「多数回」該当となり下記のように上限額が下がります。

厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆さまへ(最終アクセス日:2025年5月12日)
この多数回該当というのも、抗がん剤を継続しなければならないがん患者にとってはとても助けになります。
この高額療養費制度があるから、承認されたばかりの薬価が高い薬でも、僕のような一般庶民が使うことができます。逆にこの高額療養費制度がなければ、いまの抗がん剤治療を継続することが困難な人は多いと思います。
僕の話になりますが、2016年当時、肺がんで承認されたばかりのオプジーボという薬を使いました。当時の薬価だと僕の体重で年間総医療費が3,000万〜4,000万円ぐらいだったと記憶しております。3割負担でも年間1,000万円ぐらいになります。でも、高額療養費制度があるので、自己負担額は月44,400円、年間53万円ほどになり、薬価を気にせず治療を受けることができました。その結果として、僕が生きています。
継続した治療が必要な患者にとってはこの高額療養費制度は生命線なのです。
僕はオプジーボを投与後、がんが消えていきました。その時は、「日本に生まれてよかったー!!」と本当にこの制度に感謝しました。
高額療養費の自己負担上限額の引き上げ案
この日本が誇る制度がいま危機にあります。それが、今回の高額療養費自己負担上限額の引き上げ案です。今回は69歳以下の自己負担上限額について説明します。
引き上げは令和7年8月から3段階(3年)にわけて行うとのことでした。
第1段が下図になります。

厚生労働省の資料「高額療養費制度の見直しについて」を元に筆者作成(最終アクセス日:2025年5月12日)
これは第1段で序の口です。
第2段、3段は所得を13区分に細分化し、自己負担上限額が決められています。

厚生労働省の資料「高額療養費制度の見直しについて」を元に筆者作成(最終アクセス日:2025年5月12日) ※表のスペースの関係で一部多数回該当は省略
どうでしょう、これが閣議決定までされた、引き上げ案です。
多くの人が反対し、島根県の丸山知事が「国家的殺人未遂」と言うのも理解できます。
次回のコラムではこの引き上げ案の内容について、僕なりの解説と思うことを書きたいと思います。
出典
・厚生労働省:医療費の一部負担(自己負担)割合について(最終アクセス日:2025年5月12日)
・厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆さまへ(最終アクセス日:2025年5月12日)
参考資料
・厚生労働省:高額療養費制度の見直しについて(最終アクセス日:2025年5月12日)
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