『月曜日のお寺ごはん』青江覚峰 浅草・緑泉寺のお坊さんによる人生相談
#24 母の愛が重い
今週の相談:母が子離れしてくれなくて困っています。母は昔から過保護気味でした。最近結婚が決まったのですが「あなたが他の家に嫁ぐなんて悲しすぎる、正直この結婚も祝えない。あなたを奪う旦那さんも嫌い。」と言われています。母が嫌いなわけではないので、そのように言われてとても悲しかったです。母にとって娘の私が人生の全てのようなのですが今後母との距離の取り方を考えて困ってしまっています。
なるほど、お母様が子離れできない。言い換えれば、お母様の愛が重い、といったところでしょうか。
「愛」という言葉を使いましたが、仏教でいう「愛」という言葉は、実は皆さまの思っているイメージとは少々異なった意味で用いられます。仏教では「愛」とは激しいむさぼりを指す言葉で、飢えているときに食べ物を必死で探すような気持ちのことを指す煩悩。すなわち愛とは「ものをむさぼり、それに執着する」「欲望の満足を求める心情」を意味することばなのです。
お母様はまさにこの「愛」にとらわれているのだと思います。質問者さんのことがかわいくて、好きで好きで仕方がない。それは間違いないでしょう。しかしその「好き」が暴走し、質問者さんを困惑させるほどに執着してしまうのは、お互いにとってより大きな苦しみを生み出す原因となってしまいます。
さて、仏教の四苦八苦の一つに「愛別離苦」というものがあります。愛する者と別れ、会えなくなる苦しみのことです。お母様にとっては質問者さんのご結婚が苦しみの原因になっているのかもしれません。子供の成長は嬉しく頼もしいものですが、同時に寂しいものであるのはどの親にとっても同じです。お母様はその寂しさを他の人よりも強く感じているのでしょう。質問者さんとの距離が開いてしまう寂しさ、それによる苦しみが深まれば深まるほど、愛という執着も深まるのです。そして、そのことが質問者さんを苦しめる。まさに苦の連鎖です。
ですが、この苦しみはおそらく遠からず解消されるでしょう。結婚によって、質問者さんとお母様の距離はどうしたって開いていきます。それはすなわち、苦の原因から遠ざかることを意味しています。人は自ずから恐怖や苦しみから目をそらすという防衛本能を持っています。それは、そうすることで恐怖や苦しみが癒える近道になると本能的に知っているからです。最初のうちは、その距離を縮めようとお母様が極端な行動をとったり、結婚を祝福してくれないお母様への失望に質問者さんご自身が苦しんだりすることがあるかもしれません。
けれど、いつまでも続くものではありません。伴侶の方との現実の暮らしを大切に、しっかりと毎日を生きる。そのことが、お母様の苦しみをも少しずつ癒やし、質問者の心をも穏やかにしていくでしょう。
次回は5月13日更新です。
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