『おはよう、おやすみ、また明日。がんのお金相談室』清水公一 「がん」でかかるお金のリアルがわかる!
#6 がんになって会社を休むとき知っておきたいこと
肺がんサバイバーの社会保険労務士・清水公一さんによる、「がん」についてのお金のコラム。
がんになり働けなくなってしまった場合、会社を休む必要が出てくることも多いと思います。しかし、がんの告知を受けてパニックになっている状況で、治療の決断もしなければならない中、さらに仕事の調整もしなければならいというのは心身ともにつらいことです。ほとんどの人ががんになることを想定してそれまでの人生を歩んできたわけではないので、青天の霹靂としてがんの告知を受けると思います。今回はそのような状況で会社を休むときに注意することについて書きたいと思います。
すぐに仕事を辞めないで 〜誰しも気分が落ちるのが当たり前〜
がん告知、再発、病状進行などのストレスを感じたとき、下の図のように心が反応することが多いと言われております。
出典:がん情報サービス
https://ganjoho.jp/public/support/mental_care/mc01.html
がん告知などの強いストレスを感じたとき、2週間ほどは日常生活に支障が出るような落ち込みを感じるのが普通です。2週間ほど経ってから徐々に冷静になって正しい判断ができるようになります。実際に僕も告知を受けた後の心の動きはこんな感じだったと思います。
1か月以上経ってもがんのことばかり考えてしまい、生活に支障がでるようであれば、心の病気(うつ病や適応障害)が疑われるので、精神科や心療内科を受診したほうがいいでしょう。
この2週間ぐらいは冷静な判断ができない可能性があるので、仕事を辞めるなどの重要な決断はしないでください。がん治療のことを考えるだけで頭がいっぱいになってしまい、他のことをすべて投げ出してしまいたい気持ちになることもあるでしょう。ただ、仕事はいつでも辞めることができます。それに、仕事を辞めてしまうことは、会社の休職制度や傷病手当金など、本来受けられる社会保障の権利を自ら手放してしまうことになりますので、この時期に仕事を辞める決断は絶対にしないでください。
会社の病気休暇・病気休職について
がんになって会社を休む場合、ほとんどのケースが私傷病扱いになります(一部、建設業などにおけるアスベストばく露による中皮腫や肺がん、印刷業などにおける有機溶剤ばく露による胆管がんなどが業務上の労災と認められます)。私傷病の場合、法律的には休暇や休職制度を設けるかはそれぞれの会社の判断となり、休暇や休職を設ける場合は、会社のルールブックである就業規則に記載されております。ちなみに就業規則とは10人以上の会社では作成義務があり、従業員が見たいと思ったときに見ることができるものでなければなりせん。就業規則が社長の引き出しの奥にあって、見たいときに見ることができないのは法律違反だったりします。そのような会社に勤務している方、あなたの会社はブラック企業かもしれませんよ(笑)。
まず病気休暇と病気休職の違いについて説明しておきます。法律上2つの違いが明記されているわけではないですが、一般的に病気休暇とは健康上の理由により一時的または短期間の休みを取得できるもので、1日や時間単位で取得できる企業もあります。病気休職とは労働契約を維持したまま就労義務が免除され、治療のために一定期間休むことができるもので、休暇より長い期間の療養が必要な場合に取得できます。病気休暇、病気休職ともに、企業ごとに取得できる期間も異なりますし、その期間に給与が支給されるかどうかも異なります。
病気休暇や病気休職の制度を導入するかは法律上の義務ではないので、企業によっては病気休暇や病気休職がない企業もありますし、制度があったとしても、その内容にかなり差があるのも事実です。がん患者同士で話していても、その差を感じることが多いです。恵まれているのは公務員ですかね〜。一般的な正規雇用の公務員の場合、90日間は病気休暇として基本給の100%が支給、その後、病気休職を取得できますが、1年間は基本給の80%、その後は無給になりますが、最大3年間の休職期間が認められていることが多いです。無給の2年間は基本給の約3分の2が支給される傷病手当金を1年6か月と、支給される金額は減りますが傷病手当金附加金を6か月間受給することができます。民間企業においても、大企業では病気休暇や病気休職を導入している企業は多いですが、中小企業になるとそもそも病気休暇や病気休職の制度がない企業もあります。このあたりは、一度ご自身が勤めている会社の就業規則を見てみるといいと思いますよ。
「令和3年度『仕事と生活の調和』の実現及び 特別な休暇制度の普及促進に関する意識調査」における、病気休職、病気休暇の導入状況と休職の期間についての調査結果を載せておきます。
出典:令和3年度 「仕事と生活の調和」の実現及び 特別な休暇制度の普及促進に関する意識調査 報告書 (三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/pdf/category4/20220328_1.pdf P47.48
この調査を見ると、先程お話しした公務員の方がいかにいい待遇なのかがわかると思います。民間企業でも病気休職は多くの企業で導入されているのですが、取得できる期間がかなり違いますね。さらに民間企業の場合、休職中は給与が支給されない企業が多いです。そのため、休職を開始したら傷病手当金(給与の3分の2)を健康保険に請求することになります(傷病手当金についてはまた別の機会に詳しく説明しますね)。傷病手当金は会社が支払うのではなく、加入している健康保険から支給されます。たまに、傷病手当金が会社から支給されていると思い込んで、会社に感謝している患者さんをお見受けしますが、それは感謝する相手を間違えています(笑)。
休職期間が終了した場合の扱いについて
就業規則で定められている休職期間満了後に仕事復帰できなければ、労働契約の解除となり自然退職(正当な理由ある自己都合退職)となる企業が多いです。ただ、休職の定めがない中小企業においては社長の一声で、休職を設けたり、休職期間を長期間設定するなど柔軟に対応している企業もあったりしますので、働けなくなったら即契約解除(解雇)という会社は少ないと思います。ただ、就業規則に明記されていなければ、労働者の権利としては認められてはいないので、そこはある一定のラインは就業規則に明記してほしいですね。よくがん患者同士で休職制度等の福利厚生についての話題になると、僕の場合、がんに罹患したとき民間企業で働いており、公務員の患者さんの恵まれている事例を聞いているうちに、「マジでどんだけ貰えるんだよ」とどんどん顔が引きつってしまった自分がいました。心が狭い人間ですいません(笑)。だって羨ましいんだもん。。。。
就職や転職する際にどうしても額面の給与が一番気になりますが、休職や休暇のような福利厚生も大事だと思います。このような福利厚生はそれを使うときになって、どのような制度になっているか初めて気付くことがほとんどですが、この機会に就業規則をちょっと覗いてみてはいかがでしょうか。
漫画「おはよう、おやすみ、また明日。」はこちらから。
今後の最新コンテンツが気になる方は、ぜひSouffle公式Twitterをフォロー!