『月曜日のお寺ごはん』青江覚峰 浅草・緑泉寺のお坊さんによる人生相談
#43 推しの交際報道。
今週の相談:好きな俳優の交際報道にショックを受けています。数年前からファンの俳優に交際報道が出ました。ショックでした。ただのファンの身なんだからと内省しつつ、感情が渦巻いてなかなか立ち直れません。推しの幸せを願えない自分にも引いています。なんとか気持ちの折り合いをつけたいです。
好きな俳優、キャラクターへの思いって人それぞれですよね。
純粋な憧れだったり、目の保養だったり、心の中で疑似恋愛をしてみたり。
おばあちゃんたちが若手の演歌歌手を応援するときは、孫を応援するような気持ちだとも聞きます。
そこまでいけば、それこそ熱愛だろうと結婚だろうと、家族のような気持ちで喜べるだろうと思いきや、かわいい推しにそんな派手な女は似合わない! なんて憤ることもあるそうですから、人の思いとはままならないものです。
でも、それも当然かもしれません。
リアルで交流のない相手を好きになるのは、その人が公に見せているほんの一部分を見て、素敵だな、かっこいいなと憧れることから始まります。
そして、その素敵な一面を追い続け、思い描くことでときめきや張りを感じ、日々の潤いにするのです。
ですから、憧れていたその姿が崩れてしまったら大変。
その人を推すことで保っていた日常が狂ってしまうわけですから。
リアルの恋人であれば、不満や不安をぶつけて言い分を聞くこともできますが、それも叶いません。
一瞬にして、大切にしていたときめきや温かな気持ちが苦しみに変わってしまうのです。
信じていたものを失う。
支えにしていたものを失う。
冗談でなく、これは一大事です。
けれど、その人を想う気持ちがどれだけかき乱されようと、
自分の日常は変わりなく続いていきます。
推しの存在は太陽に似ています。
いつもそこにあって、一方的にエネルギー(幸せ)を与えてくれるものです。
こちらが求めようと求めまいと、いつもそこで輝いています。
こちらから何かを差し出すことなく、常に、一方的に与えてくれる存在。
それがある日突然なくなったら、もしくは変質したら大変です。
そんなはずじゃなかった、元通りにしてくれ、戻ってきてくれと慌てることでしょう。
しかし相手は太陽ですから、エネルギー(幸せ)のベクトルは一方通行。
こちらの声は届きません。
ありがたいことに、どんなに罵り罵倒しても、
腹を立てて仕返ししてくることもありません。
さて、推しの存在はそんな太陽に似ていると言いましたが、
幸い本当の太陽ではありません。
太陽がなくなったら人間は生きていけませんが、
推しはいなくても生きていけます。替えもききます。
幸せを願ってあげる義理はもとからありません。
想いつつけることが苦しみになってしまったのなら、背を向ければいいのです。
そんな簡単に気持ちは変わらないでしょうか。
だったらもうしばらく、「好き」と「苛立ち」の間を行ったり来たりすればいいでしょう。
大丈夫、気持ちはいつか変わります。
その人の選択が何であれ喜んであげられるようになるかもしれませんし、どうでもよくなるかもしれません。今の苦しみがずっと続くことはありえないのです。
これまでどれだけの片想いを経験したでしょうか。
どれだけの人を推してきたでしょうか。想いが報われなければ苦しみもしたでしょう。
けれど、いっときのことです。喉元過ぎればまた違う対象が現れます。
リアルの人間関係の中では面倒事も起こるでしょうが、
推しているだけの相手とならそんな心配もいりません。
気持ちの折り合いは、そのうち必ずつきます。
それまで、嫉妬や憤りも、これも恋のうちだと開き直って楽しむくらいの気持ちになれたらいいのにと思います。
次回は10月7日更新です。
今後の最新コンテンツが気になる方は、ぜひSouffle公式Twitterをフォロー!