『おはよう、おやすみ、また明日。がんのお金相談室』清水公一 「がん」でかかるお金のリアルがわかる!
#1 がんになったらかかるお金
肺がんサバイバーの社会保険労務士・清水公一さんによる、「がん」についてのお金のコラム。
このコラムを読んでいる方にはがん患者さんもいると思いますが、がんではなく健康に生活している人もいると思います。がん治療をしている人は当たり前に知っていることも、健康に生活している人は知らないこともあると思います。がんになったらかかるお金もその1つ。
今回はがんになったらかかるお金について、僕の経験を交えながら書いていこうと思います。
日本の国民皆保険制度は素晴らしい
ご存知のとおり、日本は原則、国民全員が公的医療保険に加入しています。当たり前のように思っている方も多いと思いますが、この国民皆保険制度は、世界でも誇れる素晴らしいものだと僕は思っています。
公的保険適用の治療をした場合の国民の自己負担割合は年齢によって決まっています。
※1 平成26年3月末までに70歳に達している方は1割負担
※2 単身:収入額383万以上 被扶養者あり:収入額520万以上
ここには子供に対する自治体独自の支援等は含まれておらず、子供への自己負担額についてはさらに少なくなる自治体が多いと思います。僕も2人の子供がいますが、子供の医療費は医療機関受診1回につき200円で、あとは市が負担してくれています。
医療費が高額になった場合:高額療養費制度
病気や怪我をして、医療費が高額になった場合、公的保険適用の治療をしていれば、支払った3割負担のうち、一定額以上は公的医療保険の保険者が負担し、患者さんに3〜4か月後ぐらいに払い戻されます。それが高額療養費制度です。所得や年齢により高額療養費制度で患者さんに払い戻される金額は変わってきます。70歳未満の医療費の自己負担限度額は収入により下記のように決まっています。なお、70歳未満の場合、別々の医療機関を受診した場合に窓口支払いが21,000円以上の場合のみ合算できます。また、外来と入院は別々の自己負担上限額となります。
区分 | 収入 | ひと月の自己負担上限額 | 多数回該当 (4か月目から) |
ア | 年収約1,160万円以上 | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
イ | 年収約770万〜約1,160万 | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
ウ | 年収約370万〜約770万円 | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
エ | 〜年収約370万円 | 57,600円 | 44,400円 |
オ | 住民税非課税者 | 35,400円 | 24,600円 |
70歳以上になると、さらに自己負担額が減る仕組みになっておりますが、ここでは割愛します。高額療養費制度についてさらに詳しく知りたい人は厚生労働省のページを参照してください。https://www.mhlw.go.jp/content/000333279.pdf
そのため、薬価がめちゃくちゃ高い薬を使ったとしても、自己負担は上限額が決まっています。僕は肺がんに保険承認されたばかりの「オプジーボ」という薬を2016年頃、使っていました。この薬、ノーベル賞を受賞した本庶佑先生の研究を基礎に作られた画期的な薬です。当時、ニュースでもたくさん報道されたので知っている方もいると思います。本当にすごい薬で、僕はこの薬のお陰でかなり厳しい状態から生還することができました。この薬がなかったら、いまは生きていないはずです。
すごい薬なんですが、保険承認されたばかりの頃、この「オプジーボ」は薬価がめちゃくちゃ高かったんです。たしか、僕が1年間使うと4,000万円弱ぐらいだったと記憶しております。月額300万円です。3割負担だとしても月額約90万円、年額約1,080万円になります。とても一般市民である僕が払える金額ではないです。
そんな時に、この高額療養費制度が助けてくれます。僕は区分が「ウ」だったので、月の自己負担額は9万円ぐらいです。さらに多数回該当で4か月目からは自己負担月額44,400円です。つまり、月額44,400円で300万円の薬を使っていたことになります。
まさに、日本に生まれてよかった───って感じです。これがアメリカの場合だと、民間の医療保険に加入していない場合、月額300万円の自己負担となってしまう場合もあり、まさに、お金の切れ目は命の切れ目となってしまいます。
※補足ですが、さらに僕の場合、健康保険組合が独自で25,000円以上の自己負担額になった場合、25,000円から約90,000円までの65,000円を負担してくれる、付加給付という制度もありました。公務員や大企業の健康保険組合の場合、この付加給付制度があるところが多いです。なので、年間30万円の自己負担で年間4,000万円の薬を使えたことになります。
付加給付制度については機会があればまた書きますね。
高額療養費制度について、家庭内で同じ保険者に複数人で加入している場合や加入者に70歳以上の家族がいると、複雑な計算が必要になり、自分で計算するのがなかなか難しいです。社会保険労務士の試験に毎年出題されますが、僕も自分で計算をできるか自信がないです…。ただ、いまは健康保険の保険者の方で自動計算してくれ、自動的に払い戻されるケースや申請だけは自分でして、計算は保険者でやってくれるところがほとんどなので、わからない場合はとりあえず、無理して自分で計算せず、保険者に聞いてみましょう。
窓口負担を減らすには:限度額適用認定証
高額療養費制度はあくまで3〜4か月後に3割負担で払った医療費が払い戻される仕組みです。僕が「オプジーボ」を使っていた時期を例にすると、3割の90万円を病院窓口で支払って、自己負担上限額が9万円なので、3〜4か月後に81万円が健康保険より払い戻されます。そうすると払い戻されるまでに病院窓口で90万円を3、4回支払わなければなりません。後日、払い戻されるといっても、4か月分の360万円を一時的でも自分で払うのは厳しいですよね。そんな時に健康保険に事前に申請しておくと便利なのが、限度額適用認定証です。
限度額適用認定証を病院窓口で提示すると、1か月の支払いを自己負担上限に抑えることができます。入院することが決まっている時など、医療費が高額になりそうな時は、事前に健康保険に限度額適用認定証を申請しておきましょう。ある程度治療期間が長くなることが分かっている場合は、限度額適用認定証の有効期間をなるべく長い期間で申請しましょう。保険者により3か月〜1年ぐらいの有効期限の限度額適用認定証を発行してくれると思います。
ただ、マイナンバーカードを保険証として利用登録をして、医療機関の窓口で保険証として利用した場合、この限度額適用認定証がなくても、窓口負担を限度額適用認定証を利用した時と同額にできます。マイナンバーカードの保険証利用は個人的にはいろいろと、メリットが多いと思っているので、利用したほうがお得だと思います。マイナ保険証については、改めて解説しますね。
ここで1つ、ある程度キャッシュを持っている人への裏技です。限度額適用認定証を申請しないで、医療費の3割負担分をクレジットカードを使って病院窓口で支払うと、クレジットカードのポイントをゲットできます。どういうことかというと、先程の僕の「オプジーボ」を使っていた時を例にすると、医療費の3割負担分、90万円の支払いをポイント還元率1%のクレジットカードで支払うと9,000ポイントもらえます。3〜4か月後に現金81万円が高額療養費として払い戻されます。でも、クレジットカードのポイントはそのままです。つまり8,100ポイント得した計算になります。それで、治療を頑張ったご褒美に美味しいものを食べに行くことができます。これが、年間になると97,200ポイントになります。あまり大きな声では言えないので、ここだけの話にしておいてくださいね。
保険承認されたばかりの「オプジーボ」の例はちょっと極端だったかもしれないですね。「オプジーボ」もいまは使用する人が増え、薬価がかなり下がり、当時の3分1ほどの薬価になっています。一般的にがん治療をしているとよくある、月の医療費総額が100万円の場合を例にして高額療養費制度と限度額適用認定証の計算例の図を作ってみました。
ここまで説明してきたように、公的保険適用の治療をしていれば、日本では法外な治療費を請求されることはないです。
ただ、公的保険適用ではない、いわゆる「自由診療」の場合、話は別です。特に、医師から治る見込みがないと言われてしまったがん患者さんの場合、「末期がん治った!!」「がんがすべて消えた!!」とかいう見出しの雑誌などがあると、つい見てしまいます。次の回では、「自由診療」の闇について、「自由診療」を体験済みの僕の話を交えながら、解説したいと思います。
漫画「おはよう、おやすみ、また明日。」はこちらから。次回更新は11月20日です。
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