『おはよう、おやすみ、また明日。がんのお金相談室』清水公一 「がん」でかかるお金のリアルがわかる!
#10 障害年金について Part1 〜がんで障害年金はもらえるの?〜
肺がんサバイバーの社会保険労務士・清水公一さんによる、「がん」についてのお金のコラム。
今回は障害年金についてです。傷病手当金と障害年金は闘病中の所得補償の2本柱だと僕は思っております。(注:障害年金と傷病手当金は基本的には同時にもらうことはできないです。障害年金と傷病手当金の併給調整については次々回で詳しく書きたいと思います。)ただ、がんで障害年金がもらえる可能性があるというのは患者さんの中でも知らない人が多いですし、さらに、医療従事者の中でも、詳しく制度について理解されてない方も多いと感じます。障害年金を申請するためには、医師に診断書を書いてもらわなければなりません。ただ、この診断書の記載方法がわかりにくいんです。現実として、年金事務所から診断書の原本をもらってきて、それを医師にそのまま渡して診断書を記載してもらっても、なかなか患者さんの状態を反映した診断書ができあがらず、希望どおりに認めてもらえないケースが目立ちます。今回はどうしてそのようになってしまうのかを含めて、がん患者さんの障害年金をとりまく現状を僕の視点で書きたいと思います。ちなみに、僕は肺がんで障害年金2級を受給していた経験があります。がん患者さんにとって経済的不安を軽減させることは、闘病中のQOLを大きく左右するものだと思いますので、知らなかったがないようにしたいですね。
がん患者の障害年金受給状況
がんで障害年金を受給するのは難しいということをよく聞きます。では実際にがん患者さんはどのくらい障害年金を受給しているか? 厚生労働省より「障害年金業務統計」というのが公表されており、それを読むと、がん患者さんがどれくらい障害年金を受給しているかが、ざっくりですがわかります。
障害年金業務統計では、診断書種類別支給件数が公表されています。障害年金の診断書は全部で8種類あります。
障害年金の診断書(8様式)
・眼の障害
・聴覚・鼻腔機能・平衡感覚・そしゃく・嚥下・言語機能の障害
・肢体の障害
・精神の障害
・呼吸器疾患の障害
・循環器疾患の障害
・腎疾患・肝疾患・糖尿病の障害
・血液・造血器・その他の障害
がん患者さんが障害年金を請求する場合は「血液・造血器・その他の障害の診断書」を使用します。がんにより別の障害を併発している場合は、「血液・造血器・その他の障害の診断書」と別の診断書も併せて提出することもあります。別の障害とは、例えば、股関節転移があり骨が脆くなって圧迫骨折してしまい、両足に不自由がある場合は「肢体の障害の診断書」を使いますし、口腔がん(舌がんなど)によりそしゃく・嚥下・言語機能に障害がある場合は「聴覚・鼻腔機能・平衡感覚・そしゃく・嚥下・言語機能の障害の診断書」を「血液・造血器・その他の障害の診断書」と併せて提出することがありますが、基本的には「血液・造血器・その他の障害の診断書」です。
「血液・造血器・その他の障害の診断書」で扱う病気はがんだけでなく、他の傷病も含みます。血液・造血器の傷病には白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など血液のがんを含みますが、固形がんは「その他」の傷病扱いです。固形がんについては専用の診断書がないんです。専用の診断書ではないため、がん患者さんの状態を正確に伝えるのが難しいです。障害年金に詳しい腫瘍内科の医師とがんの障害年金のことについての話をすると、いつも固形がん専用の診断書を早急に作るべきだという話になります。腫瘍内科の医師の視点でも「血液・造血器・その他の障害の診断書」では、がん患者さんの状態を正確に伝えるのが難しいということです。
がんでの障害年金の支給状況
それを踏まえた上で、令和3年度の障害年金の診断書別支給件数を見てみましょう。
「血液・造血器・その他の診断書」で障害年金を受給しているのは全体の3.4%(4,233件)です。「その他」の傷病にはがん以外の傷病も含まれるので、がんで受給しているのは3%いないと思われます。これは、がんという病気がどの年代でも罹患者数・死亡者数が多いことを考えると少なすぎると思います。これは請求するべき人が請求していないのと、受給できるはずの人が受給できていないということだと推測します。ちなみに、令和3年度に請求した人の決定区分を「全診断書」と「血液・造血器・その他の診断書」で比較したグラフが下記になります。障害基礎年金での支給決定数と障害厚生年金での支給決定数に分かれています。(障害等級についての具体的な条件は次回コラムで書きますね)
下記が障害基礎年金(1,2級のみ)です。
下記が障害厚生年金(1,2,3級、障害手当金)です。
「全診断書」と「血液・造血器・その他の障害の診断書」を比べると、明らかに差があることがわかります。「血液・造血器・その他の障害の診断書」のほうが上位等級数が少なく、さらに非該当数が増えます。つまり、全診断書と比べると上位等級では認められづらいし、非該当は増えるしで、認定に関しては厳しいのが数字としてわかります。これは他の内部障害(呼吸器や循環器)にも同じことが言えます。がんも含めた内部障害は見た目では分かりづらく、自覚症状についても倦怠感や疲労感など主観的なものが多く、きちんと伝えられていないので厳しい認定結果になってしまうことが多いと推測できますが、これをなんとか変えていかなければいけないと強く思う次第です。
そのためには障害年金という制度の周知が必要だと思います。それはがん患者さんだけでなく、医師をはじめとする医療従事者への周知も必要です。そして、がん患者さんが障害状態に該当するのであれば請求することが必要だと思います。がんでの請求数が増えれば、その声を国も無視することができなくなると思います。
障害年金は書類のみでの審査です。当然、その書類の中で1番重要なのが主治医の記載する診断書です。診断書が受給の可否を決めるといっても過言ではありせん。
がんで使用する「血液・造血器・その他の診断書」が下記になります。
障害年金は病気やケガのため、就労や日常生活に支障があるときに受けられる年金です。診断書は能力障害を見るものであり、具体的に日常生活や労働(家事)にどのような支障をきたしているかを、審査をする日本年金機構の認定医が判断できることが極めて重要となります。
もし、がんで障害年金を請求するのであれば、がんを診察する医師の中には障害年金の診断書作成に慣れていないこともあると想定していたほうがいいかもしれません。もちろん、医師の1番の仕事は患者さんのがんを治すことや症状を抑えてQOL(クオリティー・オブ・ライフ:生活の質)を保つことだと思います。ただ、制度の趣旨を理解していただき、がん患者さんでも、日常生活や仕事について支障がある場合は障害年金を受給できるので、障害年金を請求するがん患者さんがいれば、日常生活や就労にどれだけ制限を受けているかをヒアリングして診断書に記載していただけると助かります。そして診断書を依頼する患者さんは、日常生活や就労状況をきちんと主治医に伝えましょう。しかし、診察って、待ち時間も長いし、主治医も忙しそうにしていることが多いので、なかなか治療と関係ないことは聞きづらい雰囲気もあるかもしれません。日常生活や仕事のことについては、診察前に紙にまとめて外来受付でカルテに取り込んでもらうのがいいかもしれないですね。
前述しましたが、保険会社の診断書などは、保険会社から送られてきた原本を病院の文書窓口に渡して、カルテにある治療内容や入院日数などの事実を書いてもらえばそれで問題ないです。しかし、障害年金の診断書は、年金事務所から診断書の原本をもらってきて、それを文書窓口にそのまま渡して診断書を書いてもらっても、なかなか患者さんの状態を反映した診断書ができあがらず、希望どおりに認めてもらえないケースが多いです。そのようなことがないようにしないといけないですね。
次回のコラムでは、障害年金の制度の説明と、がんでどのような状態になったら障害年金を受給できるかについて解説します。
すぐに障害年金の請求を考えている方は、制度の説明や請求手続が載っている、日本年金機構の「障害年金ガイド(令和6年度版)」を参照してください。
参考資料
障害年金業務統計(令和3年度決定分)日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/info/tokei/kako/r03.files/r03.pdf
血液・造血器・その他の障害用診断書 日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/todokesho/shougai/shindansho/20140421-16.files/08-1.pdf
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