#12 障害年金について Part3 〜診断書を医師に依頼するときに知っておくべきこと〜 | Souffle(スーフル)
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コラム 2024.09.09

『おはよう、おやすみ、また明日。がんのお金相談室』清水公一 「がん」でかかるお金のリアルがわかる!

#12 障害年金について Part3 〜診断書を医師に依頼するときに知っておくべきこと〜

『おはよう、おやすみ、また明日。がんのお金相談室』清水公一

肺がんサバイバーの社会保険労務士・清水公一さんによる、「がん」についてのお金のコラム。

前回のコラムでは、どんな状態であれば、がんで障害年金が受給できる状態で、障害等級が何級になるのかをご説明いたしました。復習しますと、

『おはよう、おやすみ、また明日。がんのお金相談室』

要約をすると、
 ●1級:寝たきり
 ●2級:日常生活に著しい制限がある
 ●3級:労働に制限がある
となります。

上記の状態であることを医師の診断書のみで証明しないといけません。今回のコラムでは、具体的に認定基準を紐解き、障害年金を受給するためにがん患者さんが理解しておくべきこと、診断書をどのように医師に書いてもらえばよいかなどのより実践的な請求手続きについてお話しいたします。

診断書で書かなくてもいいところが結構ある

がんの障害年金で使用する「血液・造血器・その他の障害用の診断書」

この「血液・造血器・その他の障害用」の診断書ですが、がん専用のものではありません。そのため、書かなくていいところが結構あります。

記載欄⑬「血液・造血器」は血友病や白血病などの血液がんで請求するときに使用し、記載欄⑭「免疫機能障害」はエイズなどの免疫障害の病気で使用するので、書かなくていいです。むしろ、百害あって一利なしとまでは言わないけど、書いてもらっても非該当の理由には使われるけど、認定にプラスの理由となることがほとんどないと僕は思っています。あと記載欄⑪の握力、視力、視野、聴力なども基本的にはがんとは関係ないので、診断書を依頼する際には、付箋かなにかに記載不要と書いて貼っておきましょう。

『おはよう、おやすみ、また明日。がんのお金相談室』

『おはよう、おやすみ、また明日。がんのお金相談室』

「血液・造血器・その他の障害用」の診断書をもとに著者作成

一般状態区分表について

診断書の中で特に大事な項目が診断書記載欄⑫の「一般状態区分表」です。ア〜オのどれかにマルをしてもらいます。

認定基準には各等級に相当すると認められるものの一部例示として次のような記載があります。

実際の認定においても、一般状態区分表が「イ」だと2級は難しいです。ただ、一般状態区分表が「エ」であっても、2級が認められないことはよくあります。もちろん、この一般状態区分表だけでなく、他の診断書記載内容も大事になり、一般状態区分表のみで認定されるわけではなく、診断書でがんにより日常生活や労働にどれだけ影響があるかで等級の認定をしますが、この一般状態区分表が1番重要と言っても過言ではないです。ただ、ここで注意しないといけないのがECOGのパフォーマンスステータスとの関係です。

一般状態区分表とパフォーマンスステータス(PS)

がん患者さんの全身状態を判断する指標として、臨床でよく使われているのがECOG(米国の腫瘍学の団体の1つ)が定めた指標であるパフォーマンスステータス(以下PS)です。がん患者さんの全身状態を医師が評価するための指標として使われています。日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)が日本語訳したものが次のようになります。

どうでしょう、障害年金の診断書にある一般状態区分表とほぼ同じ文言だと思いませんか。一般状態区分表ア〜オがPS0〜4 となります。

では、一般状態区分表=PSにならないといけないのかというと、そこは最終的に医師の判断となりますが、僕は認定基準から読み解くと一般状態区分表とパフォーマンスステータスが必ずしも同じでなくてもいいのではないかと思っております。

例えば、がん患者さんが3週間に1回の細胞障害性抗がん剤を使ったケースをモデルケースにすると、個人差はあると思いますが、下図のように体調が変化することが多いのかなぁと思います。

『おはよう、おやすみ、また明日。がんのお金相談室』

自作資料

診察+抗がん剤投与日が黄色のマルになります。診察は抗がん剤投与直前に受ける場合がほとんどだと思います。PSというのはこの診察時に抗がん剤ができる全身状態かを判断するために医師がチェックして、カルテに記入している場合が多いです。この時のPSは診察後に抗がん剤ができる状態かを判断するためチェックしている場合が多く、おそらく前回の抗がん剤投与時からの副作用で苦しかった時期の日常生活や就労状況は考慮していないことがほとんどだと思います。そして診察日は抗がん剤が1番抜けていて、副作用が1番軽い時期になります。

障害年金の認定基準には「(がんの)障害の程度は、組織所見とその悪性度、一般検査及び特殊検査、画像検査等の検査成績、転移の有無、病状の経過と治療効果等を参考にして、具体的な日常生活状況等により、総合的に認定するもの」とあり、認定に際しては、具体的な日常生活状況や労働状況がとても重要になります。この認定基準から読み解くと、前回抗がん剤投与後からの具体的な日常生活や労働状況によって一般状態区分表を医師に判断してもらうのが自然な流れだと思います。

仮に医師の診察日、その日のみの状態で一般状態区分表を記載するのであれば、再発後に手術をしていれば、その日の状態を記載してもらうのなら一般状態区分表オになると思うのですが、実際には、その後回復していくので、オにマルはおかしいんですよ。

話は戻りますが、抗がん剤中に一般状態区分表を記載してもらうのであれば、やはり前回抗がん剤投与後からの具体的な日常生活や労働状況によって判断してもらうべきだと思います。

日常生活活動能力及び労働能力について

一般状態区分表と並び診断書の中で大事なのが、記載欄⑯の「現症時の日常生活活動能力及び労働能力」です。こちらには具体的に日常生活や労働への影響を記載してほしいです。

そのために、患者さんは日常生活や労働状況を診察時にきちんと医師に伝えておく必要があります。しかし、診察時に主治医から「調子はどうですか?」と聞かれると「大丈夫です」と言ってしまうのが患者あるあるだと思います。僕もそうでした(笑)。この診察の時に日常生活や仕事について医師に詳しく話しているでしょうか? おそらくほとんどのがん患者さんはそのような話をしていないと思います。病院では診察の待ち時間も長く、医師も忙しそうにしているので、そのようなことを話す時間はないと思ってしまいますよね。そうするとカルテには障害年金の認定の肝となる日常生活や労働状況については何も書いていないことになります。

このような状態で、年金事務所からもらってきた診断書の原本を病院にお願いしても、希望する等級が認められる診断書が出来上がってこないことは容易に想像できます。

日常生活や労働状況をしっかり伝えよう

がんを診察している多くの医師は、患者さんのがんを治したり、副作用を軽減することがメインの仕事だと思います。精神科の医師は、患者さんの治療のために、日常生活や仕事について聞くことが仕事なので、カルテを見て診断書を書くことはできると思いますが、がんの場合はそうはいきません。

ではどうすればいいのか? 診察時は待ち時間も長いし、先生は忙しそうにしていて怖いので、日常生活や仕事について話しにくいし・・・。そんなときは、前もって日常生活や労働状況をメモに書いて、診察前に外来受付に渡してカルテに取り込んでもらうのが、カルテに残す最善の策だと思います。A4の紙かなにかに日常生活や仕事について書いて、外来受付に渡してカルテに取り込んでもらうのはオススメです。

これを毎回の診察時にやるのは面倒だし、気が引けるという方もいると思います。ただし、最低でも障害年金を依頼するときの診察時には必ずやってほしいです。

予後について

診断書記載欄⑰「予後」についてですが、障害年金の診断書は患者さんが見るものなので、医師も気を使ってか、あまり悪く書かないケースも多く見受けられます。

例えば、肺ステージ4で多発遠隔転移があった患者でも、抗がん剤が奏効しているときは、画像上はがんが消えていることもあると思います。

そのような場合でも「画像上は腫瘍が消失しており、完治を目指し治療中」と書いてもらうのは障害年金的にはあまりよろしくないです。むしろ、「肺がんステージ4であり、薬物療法が無効になった場合は1年以内」というような記載のほうが障害年金的にはいいということです。あくまで、悪い方向にいった時のことを書いてもらうようにしましょう。

予後の記載欄に「半年〜1年」というような悪いことが書かれてショックを受けてしまう患者さんも多いですが、そもそも、がんで抗がん剤治療をしている限り、予後は治療効果に左右され、医学的に明確な予後の判断は難しいはずなんです。臨床試験の結果により、薬の効果の平均値はわかりますが、それも個人差が大きいです。なので、悪いことが書かれていた場合は、主治医の優しさだと受け取ってください。僕が代理で手続きするときには、悪い予後を書いてくれるのは主治医の優しさだと依頼者の方にしっかり伝えております。

でも、僕自身が肺がんで障害年金の診断書を依頼したときの予後の記載欄に「多発脳転移を認めており、抗がん剤による治療が奏効しない場合の予後は1年以内である可能性もある」と書かれていたことに、かなりショックを受けた記憶があるので、患者さんとしては気になってしまいますよね。

まとめ

今回は障害年金の診断書を医師に依頼するときのポイントや注意点について解説しました。障害年金というのは書類のみの審査であり、医師の診断書が1番大事になります。請求者が治療歴や日常生活、就労状況について記載(主張)する「病歴・就労状況等申立書」という書類もあるのですが、こちらに診断書に書いてないことをいくら書いても意味がないです。あくまで、「病歴・就労状況等申立書」は診断書の内容を補足するような内容にするのが望ましいと思います。

がんで障害年金を考えている方は、今回お話ししたポイントを押さえて、医師に診断書をお願いしてください。

日本年金機構ホームページ:病歴・就労状況等申立書

参考資料
・日本年金機構:血液・造血器・その他の障害用の診断書
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/todokesho/shougai/shindansho/20140421-16.files/08-1.pdf
・国民年金・厚生年金保険 障害認定基準 第16節/悪性新生物による障害
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/ninteikijun/20140604.files/3-1-16.pdf
・がん情報サービス:パフォーマンスステータス
https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/Performance_Status.html
・日本年金機構ホームページ:病歴・就労状況等申立書
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/todokesho/shougai/shindansho/20140516.files/01.pdf

漫画「おはよう、おやすみ、また明日。」はこちら▶▶

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