『部屋から出ないで100年生きる健康法』 カレー沢薫 目指せ元気な引きこもり!
#5 癒しのパンダ
大好評発売中の『部屋から出ないで100年生きる健康法』からのスーフル特別試し読み企画、今回で最後となります。もっと読みたい方はぜひ『部屋から出ないで100年生きる健康法』をお手にとってくださいませ! 48のお役立ち健康法が収録されてます!
突然担当からパンダの本が送られてきた。なんでも知人に健康法を尋ねたら 「パンダを見ると癒される」 という返答があったからだそうだ。確かにストレスは万病の元だ。だが世の中ストレスだらけであり、全てのストレスを避けようと思ったら 「部屋から出ない」 以外にない。つまり今私が実践している「部屋から出ない健康法」に勝る健康法はないのだが、これは社会保険とか厚生年金とか全てを失って得た無職の特権である。
クレカを難なく作れる凡人の皆さまは、外に出たり、あまつさえ会社なる収容所で無理解な他人との共同労働を強いられるという、ストレスをシャワーの如く浴びる生活を余儀なくされていることだろう。かく言う私も、この特権を手に入れたことによる 「将来不安」 を考えると突然夜も眠れなくなってしまう。何度も言うが「寝ない」と言うのは一番健康に悪い。つまりどんな立場だろうが、現代人は様々なストレスにさらされており、ストレス自体はもはや不可避と言って良い。よって我々の健康はストレスを受けた体をどれだけ癒せるかにかかっているのである。そのためにはアロマオイルを静脈に直接注入することも辞さない覚悟が必要だ。
そんなストレスクラッシャーとして挙げられたのが「パンダ」である。私は「おキャット様原理主義過激派」なので、正直他の動物にあまり目を向けたことがないのだが、おキャット様に対する感情は「可愛すぎて怒りしかわかない」というレベルであり、また人間如きが80年も無駄に生きるのにおキャット様の寿命は長くて20年程度という、世の不条理を考えると涙が止まらなくなってしまうため、逆に情緒が狂って健康に悪い。
よって動物に癒されたいと思ったら、おキャット様ほどではないが、そこそこ可愛いパンダぐらいがちょうど良いのではないか。そう言ったら、おそらくパンダ原理主義過激派に竹ヤリで刺し殺されるだろう。もちろんパンダにも強固なファンがいるのだ。本物になると日本では飽き足らず本場中国にまで遠征するという。中国にはパンダに直接触れられる施設もあるようだが、そこにたどり着くまで崖の山道を4時間走らなければいけないようで、そこまでのストレスがまず深刻である。そして今、日本には「シャンシャン」がいる。シャンシャンは初めて日本で自然繁殖に成功したパンダだ。
パンダは繁殖が難しい。まずメスパンダが妊娠できるのは1年の内数日だという。またパンダ自体がイマイチ増える気がないらしく交尾も積極的にしない。さらにはパンダ自体「交尾」というものを知らなかったりするのだそうだ。教えられないとセックスが何かわからないのは人間だけかと思いきや、パンダも同じようだ。よって、中国ではパンダに他のパンダが交尾をしているリアルAV (アニマルビデオ) を見せて何とか交尾をさせようとしたり、このまま行けば絶滅してしまうパンダを増やすべく人間たちは日々奮闘している。ここまで他の生物にセックスを応援されている動物はいないだろう。
日本でのパンダの繁殖が難しいのはこれに加えて「相手を選べない」というのがある。中国のパンダはまだ頭数がいるので繁殖相手を選べるが、日本のパンダはいきなり「このパンダと子どもを作れ他に選択肢はない」という状態なのである。自分が同じ立場になったらどうだろうか「もう絶滅でいいっす」とならないだろうか。そんな過酷な状況で「シャンシャン」が生まれたことはまさに快挙なのである。そんな背景を考えると「本当に人間という奴は、お前が滅びろ」という気になってしまい、癒されるどころではなくなってしまいそうだが、パンダ自体は確かに可愛いし、子パンダの丸さや佇まいには、力ずくで癒してくるパワーがある。見た目のかわいらしさもそうだが、パンダの生態にも癒されるものがある。パンダの主食と言えば竹である、笹というイメージがあるかもしれないが、竹なのだ。
何故パンダが竹を食っているかと言うと、竹は1年中生えている上に他に食べる動物がいないため競争率が低く、食いっぱぐれることがないからだ。これだけだとパンダ賢いということになるが、何故別の動物が食わないかというと、竹には栄養がほとんどないからである。
よって竹だけ食って生きようとすると膨大な量の竹を食う必要があり、その結果パンダは起きている時間のほとんどを竹を食っており、他の時間は寝ているという。他の生き物との争いを避けた結果「竹を食うだけのパンダ生」になったのがパンダという生き物である。
「俺はなんのために生まれてきたのだろう」と、すぐに小難しいことを考えたがる人間にとって「竹を食いに来ただけ」のパンダは実に癒しである。ちなみに動物園では、竹だけではなく他に美味くて栄養のあるものも食えるのだが、それでもパンダは竹ばっかり食っているという。きっと竹が好きなのだ。
そしてあの人々を魅了してやまないあの白黒の模様だが、何故あのような模様をしているかは未だに謎なのだという。しかしあの模様で生まれたからこそ、我々はパンダに癒されているのだ。パンダが、カマドウマみたいな柄だったら、人間たちはもっと不健康だったということだ。あの模様で生まれて来てくれたパンダに感謝である。
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コミュニケーションしたくないからジムには行きたくないし、面倒くさいのは嫌だし継続力もない。本コラム連載中に会社員を辞め、ほぼ外に出ることもなくなった著者が、頑張らずに健康法を試していく新時代健康コラム!! 目指せ元気な引きこもり!