#8 ほんの数%の(『第8話 サンドイッチとおにぎり』) | Souffle(スーフル)
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コラム 2023.08.04

『セトウツミ コノモトメモ』 此元和津也 『セトウツミ』の作者自身によるレビューエッセイ!

#8 ほんの数%の(『第8話 サンドイッチとおにぎり』)

『セトウツミ コノモトメモ』 此元和津也

セトウツミの作者・此元和津也が1話ごとの裏話と思い出を漫画と共に語るレビューエッセイ。
レビュー後の漫画とあわせてお楽しみください!

ほんの数%の

2022年。約5年ぶりに会ったS子さんは何も変わってなかった。
そう伝えようとする前に、S子さんが先手を打つように言う。
「何も変わってないですね」
シャングリ・ラ東京の28階。意味の分からないくらいアーバンでラグジュアリーなラウンジでプリンを食べた。
この5年でお互い、環境は大きく変わっている。S子さんは部署を移しているし、私生活でも大きな変化を迎えた。僕は漫画を描いてない。
それでも顔を合わせれば、歳月を越えて立場を一瞬で元に戻す。
7割ぐらいタメ口を交ぜながら捲し立ててくるS子さんを見て懐かしいなと思った。
編集者と作家は不思議な関係だ。もちろんそれぞれの向き合い方があって、苦楽を共にした同士だったり、主従関係がはっきりした師弟のようだったり、公私関係なく遊ぶ友達だったり、憎しみ合ったり、様々だ。
少し上の世代の漫画家に訊くと、昔は編集者からのモラハラやパワハラめいたことが普通にあったという。
そう考えると僕は結構甘やかされてきたお坊ちゃん漫画家だったと思う。
高圧的な編集者に会ったこともないし、真剣に怒られたことも怒ったこともない。距離感のイカれた編集者は2人いたが、どちらも僕に対する行き過ぎた好意が前提にあった。
分かりあえてるようで分かりあえていない。信頼しているようで信頼しきってはいない。
僕と編集者に関していえば、ほぼ100%に近くビジネスだけで繋がっているのは間違いなかった。

2013年。
新聞社の取材と、単行本1巻の打ち合わせを兼ねて、S子さんが大阪に来た。初顔合わせ以来二度目。
偶然、その日は僕の誕生日だった。
スイスホテルで慣れないインタビューを終え、適当に入ったお店でご飯を食べた。
わりとどうでもいいような話から始まり、今後の方向性についてなどの重要な話に差し掛かったその時、店中に西野カナの音楽が鳴り響き、ウェイトレスが花火の突き刺さったケーキを持ってやってきた。
カウンター席の隣にいるS子さんを見ると、軽い手拍子をしながら西野カナを口ずさんでいる。
ウェイトレスはカウンターを通り過ぎ、かまくら風の個室にケーキを持っていった。
当たり前だった。偶然入ったお店だったし、そもそも僕はS子さんに誕生日を伝えてない。
「今日僕、誕生日なんですよ」
喉まで出かかったその言葉は、最後まで発することはなかった。

「そうだったんすか~。言ってよ〜」
屈託なく笑うS子さんはいつだって変わらない。そして未だに、お互い誕生日は知らない。
「私あの頃さ、此元さんにムカつかれてたんじゃないかなあって思うんだよね」
ほぼ100%のタメ口で言う。
ムカついたこと。まあ人間なのであったかもなあ、と思い出してみるけど、本当に思い当たらない。
ある日「あんたの本どんだけ売った思てんの!」が口癖の大阪色強めの名物女書店員と話した。
「あの子めっちゃ健気に頑張ってたで!一生懸命ポップ描いて!書店まわり言うてな!あんなん漫画家もやるんやで!」
知らなかった。確かに、書店まわりなんてしたことなかったし、しろと言われたこともなかった。
S子さんは一生懸命売ろうとしてくれていた。それも、作家は創作に集中させて、負担をかけないよう粛々と。
締め切りに追われゼロイチの作業をしていると、どんどん焦燥と孤独を拗らせ、つくる側はつくらせる側に不信感を抱きそうになる瞬間がある。
それでも、それぞれの思惑は違えど“面白いものをつくりたい”という目標だけは一致していると信じている。
分かりあえてるようで分かりあえていない。信頼しているようで信頼しきってはいない。
だけど、僕が物理的に、あるいは精神的に、一切書けなくなったとしても、たまに連絡はくれるような利害を抜きにした、ほんの数%の友情めいたものがあればいいな、と思う。
ここまで書いてムカついたことを思い出した。1巻発売直後、単行本50冊を送りつけられ、全部にイラスト付きのサインを描かされた。
創作に支障きたすレベルでめちゃくちゃ負担をかけられている。

第8話。
「そろそろ食べ物とかどうですか?ジブリとか毎回食べ物出てくるしー」
というS子さんの一言から始まった。
流れが洗練されてきて、かなり良いと思う。
これまで作家よりだった主導権が、キャラと競い合うように拮抗している。
理想的なバランス。
そしてひっそりと着実にばらまかれた布石。音も立てずにゆっくりと刺された縦軸で、編集者から騙していく。
この時点では僕しか知らない。
ほんの数%の違和感。

漫画 『セトウツミ 第8話 サンドイッチとおにぎり』はこちらから

『セトウツミ』

【漫画部分の公開は終了しました】

次回更新をお楽しみに。

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関西の男子高校生、瀬戸と内海が放課後しゃべるだけ。大ヒットマンガ『セトウツミ』の作者・此元和津也が漫画と共に当時の思い出を振り返るレビューエッセイ。どのような背景で『セトウツミ』は生まれ、創られていったのか。漫画と合わせて是非お楽しみください。

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