#322 パンストの穴は誰のもの | Souffle(スーフル)
公式Twitter 公式Instagram RSS
Souffle(スーフル) Souffle(スーフル) 息、できてる?
コラム 2025.03.04

『ほがらかSNSライフ』カレー沢薫 最近、SNSが殺伐としていないか?

#322 パンストの穴は誰のもの

『ほがらかSNSライフ』カレー沢薫

最新話更新!

『ほがらかSNSライフ』先日、親族の四十九日があり喪服で行ったのだが、最中でパンストに穴が開いていることに気づいてしまい、読経も故人ではなく、あまりにも生涯が短すぎるパンストの成仏を祈っているかのようになってしまった。

実際、通夜葬儀の際に購入したものなので、その寿命は49日よりも短く、使用回数3回でのご逝去となる。

儚すぎるパンストの生涯を嘆く声は昔から大きく、もう少し屈強なパンストを作ってほしいという声から「もしかしてパンストを買わせるためにわざと破れやすくしているのでは?」という邪推が生まれるまでになっている。

それに対しパンストメーカーが、企業アカにしては砕けた口調で「そんなものはない」と言ったことで炎上したのだが、それに対し女性実業家が「やったらあ」と破れないパンスト開発を宣言したところ、おそらく今までパンストをはいたこともなく、これからも頭以外にはく予定がなさそうな男性層が怒りだして誹謗中傷が相次ぐ事態になっていた。

これがシナリオなら「途中まではわかるが、急に男がパンストに怒りだすところで視聴者は置いていかれる」と指摘されるところだが、関係ない人が関係ないことに激怒するという現象はネットでは決して珍しいことではない。

逆に、おじさんの服装になど興味がない女性作家がおじさんのパーカーについて言及して燃えたこともある。関係ないことには黙っておく、というのが火事を防ぐ秘訣ということがよくわかった。

しかし、目に入ったコバエを無視できずに深追いし、傍から見れば怒りの形相で一人で踊り狂っている人になっているというのはよくあることだ。

SNSで目に入ってきたホットな話題に過剰に苛立ち、関係ないのに、誰にも聞かれていない過激な意見を言ってしまうことはよくある。

しかし、関係ないことに対する怒りにしては盛り上がりすぎてしまう場合もあり、中には怒りのあまり語彙が消失し、「サっす」というセンシティブ以前にプリミティブすぎる言葉だけが残ってしまい、それを本人に言ってしまうケースも少なくない。

実際、おじさんのパーカーについて言及してしまった女性のところにも殺害予告が来たようで、自分が言ったことに対する反応なので仕方がないとしつつも、あまりの怒りに、「実家がパーカー工場なのか」と訝しんでおり、破れないパンストを作ると豪語した女性のところにも一線を越えた誹謗中傷が来て、警察に相談をした旨が報告されていた。

パーカーを着ているおじさん、もしくは実家がパーカー工場の人が発言に怒って行きすぎた行動をとったのならわかるが、パンストに怒ってポリス沙汰にまでなった人が、もしパンストをはく必要がない属性の人だとしたら、いくら何でも関係ないことに怒りすぎである。

実家がパンスト工場というより、両親がパンストで絞殺されており、パンストがもっと脆弱であれば助かったかもしれないというなら、強いパンストを作ろうとしている人に怒りが向かうのは仕方がないが、それにしても行きすぎている。

しかし、ここまで行く人は稀であっても、「怒り」に任せて行動したことを後悔することは誰にでもある。

怒りによって覚醒できるのは少年漫画の主人公だけであり、大人がこれをやると、思ったよりも強度がない壁に穴が開いて敷金が追徴になるだけであり、最悪逮捕まで行くのだ。

喜怒哀楽の中で、怒りだけをやたらマネジメントしようとしているのは、最も不利益をもたらす感情だからだろう。

確かに、哀しみが深すぎるのも困るし、喜びが過ぎておしっこを漏らしてしまうこともあるが、自分はもちろん他人への危害へまで発展する感情は主に怒りであり、これがコントロールできないと周囲含めて大変なことになってしまう。

だから意識の高い人たちは、そうならぬようにしきりアンガーをマネジメントしようとしているのだ。

ネット、特にSNSはアンガーをアンコントロール状態にする装置と言ってもいい。

禅の修行も、あえて煩悩を燃え盛らせた上で、それを制御することに意味があるという。

アンガーをマネジメントしたい人は、ぜひXのおすすめ欄を見ながら怒りをコントロールする訓練をしてみてほしい。

次回は3月11日更新です。

今後の最新コンテンツが気になる方は、ぜひSouffle公式Twitterをフォロー!

前の回を読む

コミックスを購入

国家の猫ムラヤマ

カレー沢薫 既刊コミックス『国家の猫ムラヤマ』

紙書籍

2XXX年、人間は絶滅しかけ、どうぶつ達が政権を握るようになった日本。投票率0%で続投決定のムラヤマ総理大臣(ツシマヤマネコ)が国を統治する!! 日本の問題点をあぶり出して燃やす、社会風刺行政ギャグ!! 時事ネタひとコマ漫画「文化庁チンアナゴ長官」も同時収録!!

他の回を読む

OL兼マンガ家から専業作家になったカレー沢薫さんが気づいたのは、「SNSにしか居場所がない」という事実。しかし、唯一無二の居場所のSNSには炎上、マウンティング、キラキラ女子など、闇も広がっているのです。インターネットという大事な居場所を地獄にしないために、カレー沢薫さんが提案する、SNSとのほがらかな付き合い方コラム。

ご感想フォーム


    『一億総SNS時代の戦略』の紙書籍を購入