#13 傷病手当金と障害年金の併給調整について | Souffle(スーフル)
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コラム 2024.10.14

『おはよう、おやすみ、また明日。がんのお金相談室』清水公一 「がん」でかかるお金のリアルがわかる!

#13 傷病手当金と障害年金の併給調整について

『おはよう、おやすみ、また明日。がんのお金相談室』清水公一

肺がんサバイバーの社会保険労務士・清水公一さんによる、「がん」についてのお金のコラム。

前回までは給与が減ったときの所得補償のメインとなる傷病手当金と障害年金について説明をしてきました。この傷病手当金と障害年金は、基本的に同時にもらうことはできません。両方の受給権が発生した場合、障害年金が優先して支給され、障害年金の金額だけ傷病手当金が減らされます。これを併給調整といいます。今回のコラムでは併給調整について説明いたします(傷病手当金と障害年金についての詳しい説明は過去のコラムを参照してください)。

併給調整の例外

傷病手当金と障害年金が同じ怪我や病気で支給される場合、併給調整がかかります。ただし、別傷病の場合は併給調整がかかりません。それと、障害基礎年金のみが支給される場合(初診日が国民年金)も傷病手当金との併給調整はかかりません。ただ、実際のところ、傷病手当金を受給するためには社会保険に加入していることが要件なので、受け取る年金は障害厚生年金(初診日が厚生年金)となる場合がほとんどです。たまに、障害年金の初診日は国民年金加入で、がんになった後に厚生年金に加入して働き始めて、その後再発して働けなくなり傷病手当金と障害基礎年金のみを受給する場合は、両方とも満額でもらうことができます。ただ、実務においては、傷病手当金を受給する方のほとんどは障害厚生年金(今回のコラムでいう障害厚生年金は障害基礎年金+障害厚生年金を含みます)になります。

傷病手当金と障害厚生年金について

同じ傷病で傷病手当金と障害厚生年金が支給される場合は、給与が直近の1年でかなり減少した場合を除き、傷病手当金の日額が障害年金の日額(年金額÷360)を上回ります。その場合、障害年金の日額分だけ、傷病手当金が支給停止になります。図解すると次のとおりです。

・傷病手当金を受給しているときに障害年金2級が決定したケース

『おはよう、おやすみ、また明日。がんのお金相談室』

自作資料

例えば、傷病手当金が8,500円支給されているときに、障害年金(障害基礎年金+障害厚生年金)が支給されると、傷病手当金8,500円のうちの障害年金の合計額5,500円が優先して支給され、傷病手当金のうち5,500円が支給停止になり、残りの3,000円が支給され、障害年金と傷病手当金の合計額8,500円が支給されることになります(実際の支給は日割りではなく、月単位になります)。結果的に患者さんの手元に入ってくる金額は変わりません。

・傷病手当金を受給しているときに障害年金3級(最低保証額)が決定したケース

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傷病手当金8,500円が支給されているときに、障害厚生年金1,700円が支給開始されると、傷病手当金8,500円のうち1,700円分が支給停止となり、傷病手当金6,800円と障害年金1,700円が支給される形になります。

・傷病手当金より障害年金のほうが多いケース

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自作資料

傷病手当金が4,000円で障害年金(障害基礎+障害厚生)が5,000円だった場合は、傷病手当金4,000円が全額支給停止になり、障害年金5,000円が全額支給されます。しかし、先ほども述べましたが、実際は傷病手当金額より障害年金額のほうが多くなるのはかなり珍しいパターンだと思います。退職・転職をして直近1年間の給与がかなり下がった(標準報酬月額が下がった)ケースなどに限定されると思われます。

傷病手当金を受給しているときに障害年金は請求していいの?

傷病手当金と障害年金は、障害基礎年金のみ受給している場合を除き、基本的には障害年金の金額分、傷病手当金が支給停止になることを説明してきました。実際に傷病手当金を受給しているときに、障害年金を請求して傷病手当金の年金相当額が給停止になっても、受給している患者さんが損をすることはありません。ただ、傷病手当金を受給している間は金銭的なメリットもありません(傷病手当金より障害年金のほうが多いケースを除く)。

傷病手当金には支給開始日から1年6か月という期間がありますので、傷病手当金受給中でも、初診日から1年6か月が経過するタイミングで、障害年金の障害状態に該当していれば、障害年金の請求はするべきだと考えます。もちろん、傷病手当金をもらっているからといって、障害年金受給の可否に影響を与えることはありません。障害年金は請求から支給が開始されるまで時間がかかる(請求受理後3〜4か月。準備等を含めると半年ぐらい)ので、それも考慮して障害年金の請求をするのがいいと思います。

障害年金が遡って決定した場合

障害年金が遡って支給される場合に、傷病手当金を受給していた方は注意が必要です。障害年金は障害認定日に障害状態に該当していれば、障害認定日から5年以内であれば遡って請求することができます。

例えば、2024年10月(現在)で障害認定日(2021年9月)への遡及請求が認められた場合、支給開始が2021年10月からになります。この2021年10月から現時点(2024年10月)までの間に傷病手当金を受け取っていた場合、本来なら支給停止されていた傷病手当金を健康保険の保険者に返さなければなりません。傷病手当金の支給停止期間が長くなると返還金額が高額になる場合もあります。障害年金の初回振込時に遡及期間の分がまとめて振り込まれるので、傷病手当金の返還分は使ってしまわず、健康保険の保険者に返却することを覚えておきましょう。障害年金の支給が決定した場合、年金機構から健康保険の保険者に、Aさんの障害年金が2021年10月に遡って支給決定したという連絡がいきますので、忘れた頃に健康保険の保険者より返還請求が届きます。

番外編:児童扶養手当と傷病手当金と障害年金の関係

今回のテーマとは少し話が逸れますが、ひとり親に支給されるもので、児童扶養手当があります。児童扶養手当の概要はこども家庭庁のwebサイトを参照してください。

児童扶養手当が支給されると、傷病手当金と同じように障害年金と併給調整があり、遡って障害年金が支給されると、傷病手当金と同じようにそれまで支給された児童扶養手当の返還が必要となります。

2021年3月からは障害年金1,2級が支給される場合は、障害基礎年金の子の加算分のみが併給調整の対象となったので、遡って支給されても金額がそれほど高額になることは少ないですが、障害厚生年金3級はいまでも全額が併給調整の対象となります。遡って障害年金が支給されると、児童扶養手当の返還額が高額になる場合があります。

ちなみに、児童扶養手当が支給されている人に、傷病手当金が新たに支給されることになった場合、この2つは併給調整なく全額受け取ることができます。

さてここで、問題です。
Bさんの2013年〜2019年までの児童扶養手当と傷病手当金の支給済み金額は下記のとおりです。
児童扶養手当:2014年〜2019年まで支給済み:合計額190万円
傷病手当金:2013年〜2015年支給済み、2018年〜2019年済み:合計110万円

このBさんに、2019年に障害厚生年金3級が2014年に遡って支給されることになりました。
障害厚生年金3級:2019年に2014年まで遡って支給:初回振込額220万円

Bさんへの児童扶養手当と傷病手当金の返還請求額は合計いくらになるでしょうか?

Bさんの場合、児童扶養手当は市区町村、傷病手当金は協会けんぽ、障害年金は日本年金機構が問い合わせ窓口になります。

答えは次回のコラムで・・・・

漫画「おはよう、おやすみ、また明日。」はこちら▶▶

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